動画で話したこと
リールでは、ここまでを話しました。2001年に報告された日本の研究で、緑茶を1日5杯以上飲む人に胃がんが少ないという関連は見られませんでした。宮城県の40歳以上、2万6311人を最長9年追った研究です。男女を合わせると、1日1杯未満と比べた5杯以上の相対リスク(倍率)は1.2でした。ただし「差がないと証明された」わけではありません。数字の幅は0.9から1.6で、1割の低下も6割の上昇も否定できていません。
短い動画で話せたのは、ここまでです。この記事では、その先を書きます。誰を、何をもとに分けて、いつ測ったのか。そして、この記事の主役になるのは「幅」です。0.9から1.6という幅は、いったい何の幅なのか。なぜこれだけ広いのか。「関連が見られなかった」と「効果がないと分かった」は、どこが違うのか。研究についての数字や事実は、2001年に発表されたこの論文の本文に書かれていることだけをもとに説明します。この論文より後の研究には触れません。
誰を、どう分けて、いつ測ったか
はじめに、見出しにした「どう分けて」を裏切ることを書きます。この研究は、誰かが参加者を2つに分けた研究ではありません。緑茶を飲む量をくじで割り当てたわけでもありません。研究者がしたのは、住民に「ふだん緑茶を1日何杯飲むか」を尋ね、その答えでグループを作り、その後の胃がんの発生を追いかけることです。観察研究と呼ばれる作りで、介入研究ではありません。
くじ引きがないので、この研究には「割り付けどおりに比べた結果」と「実際に受けたかどうかで分け直した結果」という区別もありません。比べられているのは、自分で選んだ飲み方が違う人たちです。ここは、あとの「言えないこと」に直接つながります。
研究の手順は、本文にこう書かれています。
- 時期:1984年1月に追跡が始まりました。追跡の終わりは1992年12月31日です。論文が発表されたのは2001年3月1日号の医学雑誌で、追跡の開始から数えると17年後の報告になります。
- 場所と対象:日本の北部、宮城県の3つの市町村に住む40歳以上の住民です。本文は宮城県を、胃がんの発生率が高く(世界人口で年齢を調整した10万人あたりの率は、男性82.7、女性32.8)、緑茶を飲む量のばらつきが大きい地域だと書いています。研究がこの地域で行われたことは書かれていますが、この2つが選んだ理由だと明言されているわけではありません。
- 集め方:自記式の質問票を33,453人に配りました。配布と回収は、市町村が任命した健康推進員が各家庭で行っています。回答率は94%で、使える回答が返ってきたのは31,345人(男性13,992人、女性17,353人)でした。研究計画は大学の倫理審査委員会が承認し、署名つきの質問票が返ってきたことを参加の同意とみなしています。
- 質問票の中身:飲み物3種類(緑茶、紅茶、コーヒー)と食品11項目のほか、飲酒、喫煙、病気の既往と家族歴、健康保険の種類を尋ねています。
- 緑茶の測り方:頻度を5段階で尋ねました。飲まない、ときどき、1日1〜2杯、1日3〜4杯、1日5杯以上です。研究地域での湯のみ1杯は100 ml と書かれています。「飲まない」は5%、「ときどき」は14%しかいなかったため、この2つをまとめて「1日1杯未満」という1つのグループにしています。この解析での基準(比べるときの分母になるグループ)が、これです。実際の分布は、1杯未満19%、1〜2杯17%、3〜4杯22%、5杯以上42%でした。
- 質問票が当てになるかの確認:119人が1年のあいだに3日間の食事記録を4回つけ、そのあとで質問票に答えています。緑茶の量について、質問票と食事記録の相関は0.66でした。6か月あけて2回答えた質問票どうしの相関も0.66です。著者はこれを、研究の長所の側に「合理的に高い妥当性と再現性」として書いています。
- 測った時期:緑茶の量は、1984年のベースラインの質問票で測られています。追跡の途中で飲む量を測り直したという記述は、本文にはありません。
- 何を数えたか:胃がんの発生です。胃がんで死んだ人の数ではありません。生存と居住の状況は3市町村の住民登録から、がんの発生は宮城県のがん登録とのコンピュータ照合から把握しています。本文はこの登録を「日本で最も早くからあり、最も正確な地域がん登録の1つ」と書いています。
誰が解析に残ったかも見ておきます。
質問票を配った人数から、解析に入った人数まで
はじめに、質問票を配った住民が33,453人です。40歳以上で、宮城県の3つの市町村に住んでいた人たちです。
使える回答が返ってきたのは31,345人。内訳は男性13,992人、女性17,353人です。回答率は94%と高く、返ってこなかった人の割合は小さい研究でした。
そこから2種類の除外があります。がん登録との照合で見つかったがんは2,646例(うち胃がんは663例)でしたが、ベースライン調査より前に診断されていた541例は解析から外されました。質問票ではがんの既往を尋ねていません。当時の日本では本人に診断が伝えられないことが多く、自己申告の正確さが低いと考えられたためだと書かれています。
もう1つの除外は、緑茶の量の質問に答えなかった4,493人です。この2つを除いて、解析に入ったのは26,311人(男性11,902人、女性14,409人)でした。この中で追跡中に見つかった胃がんが419例(男性296例、女性123例)です。
追跡の長さは1人ずつ違います。1984年1月1日から、胃がんと診断された日、研究地域の外へ転出した日、亡くなった日、研究期間の終わり(1992年12月31日)のうち、いちばん早い日までを数えています。全員の合計が199,748人年です。動画で「最長9年」と言ったのは、この数え方のためです。
| 質問票を配った住民 | 33453人 |
|---|---|
| 使える回答が返ってきた人 | 31345人 |
| 解析に入った人 | 26311人 |
人数だけを表した図です。リスクの大きさを表すものではありません。
論文のどこ:Methods の Study Cohort の段落(配った人数と回答率)と、Follow-up の後ろ半分の段落(除外の手順と、解析に入った26,311人・胃がん419例)
胃がん419例のうち、腺がんであることが組織で確認されたのは80%でした。腫瘍の位置が分かった287例では、胃の体部が40%、前庭部または幽門部が33%、噴門部が21%、複数の部位にまたがるものが5%です。
計算のやり方も書いておきます。緑茶の量ごとの相対リスクは、Cox 比例ハザード回帰という方法で推定されています。調整した(計算で影響を差し引いた)のは、性別、年齢、健康保険の種類、消化性潰瘍の既往、喫煙(吸ったことがない/過去に吸っていた/現在1日1〜19本/現在1日20本以上)、飲酒、米飯の量、紅茶とコーヒー、肉、緑黄色野菜、漬物、そのほかの野菜、果物、味噌汁です。健康保険の種類は、社会経済的な状況(職業)の代わりとして使われています。日本では全員が職業などに応じた公的医療保険に入っており、対象者の98%が4つの主な保険のどれかに入っていたと書かれています。
追跡できなかった人もいます。研究地域の外へ転出した人は追跡を打ち切ったため、参加者の16%(4,289人)が追跡不能でした。ただし転出した人の割合は、緑茶の量のグループごとに16%、17%、17%、16%とほぼ同じでした。
この数字は、何を指しているか
結果を見る前に、目盛りの話をします。ここを飛ばすと、幅の意味を取り違えます。
相対リスクは、比です。 1日1杯未満のグループで起きた胃がんの発生率を分母に、そのグループと比べた倍率として計算されています。発生率は、胃がんの数を人年(1人を1年追いかけたら1人年)で割ったものです。だから基準のグループは、いつでもちょうど1.0になります。1.2は「1.2倍」、0.8は「0.8倍」という意味です。
ここで、あとの図のために1つ確認しておきます。倍率という指標では「差がない」位置は1です。0ではありません。引き算で作る指標(たとえば2つのグループの点数の差)なら「差がない」位置は0ですが、割り算で作る指標では1がその位置になります。この記事の図は、論文の倍率をそのまま並べています。ですから図の縦線は1の位置に立っていて、各行の下には「幅は1をまたいでいる/またいでいない」と出ます。%には直していないので、図に出ている数字は論文の表の数字と同じです。
2つの図で使ったのは、多変量調整後の RR1 です。 表2の脚注に、何を調整したかが並んでいます。単純な割り算の結果ではなく、性別や年齢、喫煙や食習慣の違いを計算で差し引いたあとの比です。表2には、この RR1 のほかに、性別と年齢だけを調整した相対リスク、最初の3年の例を除いた RR2、それにグループごとの胃がんの数と人年も並びます。図のあとの文では、それらにも触れます。
「1日5杯以上」は、だいたい500 ml 以上にあたります。 本文には、研究地域での湯のみ1杯が100 ml だと書かれています。この掛け算自体は論文に書かれていないので、1杯100 ml という記述からの換算として読んでください。
そして、この記事の主役です。
括弧の中の幅は、95%信頼区間です。 推定にどれくらいの不確かさがあるかを示す幅です。「95%」は、区間の作り方から来ています。同じやり方で研究を何度もやり直し、そのたびに同じ手順で幅を作る、ということをくり返したとき、できあがった幅のうち約95%が本当の値を含む。そういう手順で作られた幅だ、という意味です。いま目の前にある1本の幅について「本当の値が95%の確からしさでこの中にある」と読むのは、この幅の意味とは違います。この記事では、短く「幅」と書きます。
幅と、ばらつきは、別ものです。 統計の幅には大きく2種類あります。1つは、人によって値がどれくらい散らばっているかを表す幅です(四分位範囲のような指標がこれにあたります)。もう1つが、推定がどれくらい不確かかを表す幅で、信頼区間はこちらです。この記事で扱う相対リスクの括弧の中の数字は、後者です。「緑茶をよく飲む人の胃がんのリスクが、人によって0.9倍から1.6倍までばらついていた」という意味ではありません。集団としての倍率を1つ推定して、その推定の不確かさが0.9から1.6だった、という意味です。
幅の広さは、人数や起きた回数などに左右されます。 同じ集団を調べても、数える出来事が少なければ幅は広くなりがちです。この研究は2万6311人を最長9年追い、胃がんは419例でした。人数としては大きな研究ですが、それでも幅は0.9から1.6です。胃がんのように、大勢を長く追ってもようやく数百例という病気では、幅はそう簡単には狭くなりません。ただし、幅の広さが症例数だけで決まるわけではありません。比べるグループへの人数の分かれ方や、調整に入れた変数など、ほかのことも効きます。あとで出てくる男女別の結果は、症例数の少ない順に幅が長くなるわけではない例になっています。
傾向の検定(p 値)は、単独の比較の話ではありません。 この論文の傾向検定は、緑茶の量の4段階を順番のある数として扱い、量が増えるにつれて一方向に動いているかを見たものです。「5杯以上と1杯未満を比べた1回の比較」の p 値ではありません。男女あわせた解析では0.13でした。
倍率と、人数は、別の話です。 幅の上の端が1.6だというのは、倍率の話です。もとの頻度が低ければ、1.6倍になっても増える人数はわずかです。この研究の表2には、グループごとの胃がんの数と人年が載っています(男女あわせた1日5杯以上は206例・85,299人年、1杯未満は66例・36,572人年)。ただし、グループごとの発生率そのものは数字として載っていません。ですから「6割の上昇は100人あたり何人にあたるのか」は、この論文の表からは読み取れません。相対の幅を、絶対の人数に読み替えないでください。
結果を、幅で見る
まず、動画で話した主解析です。男女を合わせた、2万6311人全体の結果です。
1日1杯未満とくらべた、胃がんのリスクの倍率
まず、横の目盛りだけを見てください。縦に立っている線が1です。ここは「1日1杯未満のグループと同じ」という位置です。線より右は胃がんが多い側、左は少ない側になります。丸が推定値、横に伸びる棒がその幅です。各行の下に、その幅が1をまたいでいるかどうかが出ます。
1つめ、1日1〜2杯です。推定値は1.1。幅は0.8から1.6まで伸びています。2割の低下も、6割の上昇も、この幅の中に入っています。
2つめ、1日3〜4杯です。推定値はちょうど1.0。基準のグループと同じ位置に丸があります。それでも幅は0.7から1.4まであります。推定値が1.0でも「差がないと確かめられた」ことにはなりません。
3つめ、動画で話した1日5杯以上です。推定値は1.2。幅は0.9から1.6まで伸びています。下の端の0.9は1割の低下、上の端の1.6は6割の上昇です。どちらもこの研究では否定できていません。
3つとも、幅は1の線をまたいでいます。量が増えるにつれて一方向に動いているかを見る傾向の検定は、p=0.13でした。飲む量が多いほど推定値が上がる、という形にもなっていません(1.1、1.0、1.2)。著者の結論は「緑茶の摂取と胃がんのリスクに関連はなかった」であり、「緑茶は胃がんを防がないと証明した」ではありません。
| 1日1〜2杯 | 1.1(0.8 〜 1.6) |
|---|---|
| 1日3〜4杯 | 1.0(0.7 〜 1.4) |
| 1日5杯以上 | 1.2(0.9 〜 1.6) |
| 差がない位置 | 1 |
1は、1日1杯未満のグループと同じという位置です。幅は95%信頼区間で、推定の不確かさを表します。人によるばらつきの幅ではありません。倍率の話で、増える人数ではありません。
論文のどこ:論文の Table 2 の「Men and women」のまとまりにある、Multivariate RR1 と書かれた行。同じ数字は要旨の Results にもあります
調整の前後も見ておきます。性別と年齢だけを調整した段階では、1日5杯以上の倍率は1.3(幅1.0〜1.7)、傾向の検定は p=0.05でした。ここに喫煙、飲酒、食習慣、健康保険の種類などを加えて調整すると、1.2(0.9〜1.6)、p=0.13になります。調整によって推定値は1.2に下がり、幅の下の端も1.0から0.9へ移りました。どちらが正しいという話ではありません。何を差し引いた数字を見ているのかで、結論の言い方が変わる、ということです。
胃がんは、診断されるまでに時間がかかります。すでに胃がんがある人が、症状のために緑茶を控えていたとしたら、結果が逆向きにゆがみます。そこで著者は、追跡の最初の3年間に診断された117例を除いて、同じ計算をやり直しています。結果は、1日1〜2杯が1.2(0.8〜1.8)、3〜4杯が1.0(0.7〜1.5)、5杯以上が1.4(1.0〜1.9)で、傾向の検定は p=0.07でした。比べる相手は、さきほどの多変量調整の主解析(1.2、幅0.9〜1.6)です。5杯以上の推定値は1.2から1.4に上がり、幅の下の端も0.9から1.0へ移りました。表に示された幅は、どちらも差がない値1.0を含んでいます。表示は小数第1位までなので、下の端が1.0と出ていることだけで、この比較が有意かどうかを決めることはできません。
追跡期間を3年ごとに区切った解析もあります。1日5杯以上の倍率は、最初の3年が1.0(0.6〜1.6、胃がん117例)、次の3年が1.2(0.8〜2.0、144例)、最後の3年が1.5(0.9〜2.5、158例)でした。ここに書いた胃がんの数は、それぞれの期間に診断された全体の数です。117例、144例、158例と増えていますが、幅は0.6〜1.6、0.8〜2.0、0.9〜2.5と、かえって広くなっています。3つとも、全期間の解析(0.9〜1.6)より広い幅です。期間どうしの幅の違いは、症例数だけでは説明できません。
次に、動画では出さなかった男女別の結果です。
1日5杯以上を、男女あわせて・男性・女性で見ると
比べているのは、どれも「1日5杯以上」と「1日1杯未満」です。3つの行は別の集団ではなく、同じ26,311人を分けたものです。いちばん上が男女あわせた主解析で、さきほどの図の3つめと同じ数字です。縦線は1で、1日1杯未満のグループと同じという位置です。
1つめ、男女あわせて。推定値は1.2、幅は0.9から1.6まで。このグループの胃がんは206例でした。
2つめ、男性だけ。推定値は1.5で、幅は1.0から2.1です。この群の胃がんは151例。幅の下の端はちょうど1.0、つまり差がない値に届いています。論文の表は小数第1位までの表示なので、この端の数字だけで、この1回の比較が有意かどうかを決めることはできません。量に沿った傾向の検定は p=0.03でした。
3つめ、女性だけ。推定値は0.8、幅は0.5から1.3です。この群の胃がんは55例。5割の低下から3割の上昇までが幅の中にあり、方向を決められる精度ではありません。傾向の検定は p=0.46でした。
3本の棒の長さを見比べてください。男女別の幅は、どちらも男女あわせた幅より長くなっています。全体を男女に分けると、1つの推定に使える情報がその分だけ減るからです。ただし、女性の幅(0.5から1.3)は男性の幅(1.0から2.1)より短く、症例数が少ない順に長くなるわけではありません。幅の広さは、症例数だけでは決まりません。
推定値の向きが男女で逆に見えますが、これは「男女で効き方が違うと証明された」という結果ではありません。男性の結果も、緑茶が胃がんを増やすことを示したものではありません。理由は「この研究では言えないこと」で説明します。
| 男女あわせて | 1.2(0.9 〜 1.6) |
|---|---|
| 男性だけ | 1.5(1.0 〜 2.1) |
| 女性だけ | 0.8(0.5 〜 1.3) |
| 差がない位置 | 1 |
3つは別々の研究ではありません。同じ26,311人を、男女あわせた解析と、男性だけ・女性だけの解析に分けたものです。1は、1日1杯未満のグループと同じという位置です。幅は95%信頼区間で、推定の不確かさを表します。人によるばらつきの幅ではありません。倍率の話で、増える人数ではありません。
論文のどこ:論文の Table 2。「Men and women」「Men」「Women」の3つのまとまりそれぞれの、Multivariate RR1 と書かれた行の、いちばん右の列(1日5杯以上)。胃がんの数は各まとまりの No. of cases of gastric cancer の行
男性の3段階は、1日1〜2杯が1.3(0.8〜1.9)、3〜4杯が1.2(0.8〜1.8)、5杯以上が1.5(1.0〜2.1)でした。女性は0.8(0.5〜1.5)、0.7(0.4〜1.3)、0.8(0.5〜1.3)です。最初の3年を除いた解析では、男性が1.5(1.0〜2.3、傾向 p=0.05)、女性が1.1(0.6〜2.0、傾向 p=0.86)と、女性の推定値は向きが変わっています。1つの数字の向きに意味を読み込みすぎないほうがよい、という例です。
紅茶とコーヒーも同じように調べられ、どちらも胃がんのリスクとの関連は見られませんでした。紅茶を飲まない人と比べた倍率は、ときどきが1.1(0.8〜1.5)、1日1〜2杯が1.0(0.6〜1.8)、1日3杯以上が1.1(0.4〜2.8)で、傾向の検定は p=0.53です。コーヒーは0.9(0.6〜1.2)、0.8(0.5〜1.1)、1.0(0.6〜1.6)、p=0.98でした。紅茶の1日3杯以上の幅が0.4から2.8まで広いのは、そこに入る人が少ないからです。表1を見ると、紅茶を1日3杯以上飲む人は、緑茶の量のどのグループでも少数です。緑茶の少ないほうから順に、男性は0.8%、0.4%、1.9%、1.9%、女性は1.2%、0.9%、1.2%、2.1%でした。
「関連が見られなかった」と「効果がないと分かった」は、別のこと
ここが、この回でいちばん伝えたいところです。
見出しやニュースでは、この2つがよく同じ意味で扱われます。でも、幅を見ると別ものだと分かります。
「関連が見られなかった」は、データと矛盾しない範囲(幅)の中に「差がない」という値が入っていた、という意味です。この研究の場合、幅は0.9から1.6でした。この中には「差がない」の1.0も入っていますが、1割の低下も、6割の上昇も入っています。つまり、この研究が言えたのは「倍率は0.9から1.6のあたりだろう」までです。その中のどこなのかは、決められていません。
「効果がないと分かった」と言うためには、幅が1.0のすぐ近くに狭く収まっている必要があります。たとえば、これはこの研究の数字ではありませんが、幅が0.97から1.03のように1.0のまわりに狭く収まっていれば、大きな低下も大きな上昇もデータと合いにくくなります。0.9から1.6という幅は、それとはまったく違う状態です。ただし、幅が1の近くに狭く収まったとしても、それで言えるのは「大きな関連はこのデータと合いにくい」までです。それだけで、因果的な効果がないと証明できるわけではありません。ここから先は、次の節で書く研究の作りの話になります。
逆向きの誤解にも注意が必要です。「幅が1をまたいだから、本当は差があるのに見つけられなかった」とも言えません。幅が1をまたいでいるというのは、差がない可能性も、差がある可能性も、どちらも残っているという状態です。どちらか一方に決まった、という意味ではありません。
だから、この研究について言えるのは次の形になります。緑茶を1日5杯以上飲む人で胃がんが少ない、という関連は見られませんでした。そして、1割ほどの低下も、6割ほどの上昇も、この研究だけでは否定できていません。著者の結論も「関連はなかった」という言い方にとどまっていて、「緑茶は胃がんを防がない」とは書かれていません。
「関連なし」と聞いたら、幅を探す。幅が出ていないときは、その記事はまだ半分しか伝えていない、と考えてよいと思います。
この研究では言えないこと
ここまでの読み方に加えて、この研究の作りから出てくる限界と、著者自身が書いている限界を分けて並べます。
観察研究です。 緑茶を飲む量は、参加者が自分で選んだものです。だから、緑茶をよく飲む人と、あまり飲まない人は、緑茶以外のところも違います。表1を見ると、緑茶をよく飲む人は、男女とも少し年齢が高く、米飯、緑黄色野菜、漬物、そのほかの野菜、果物、味噌汁を多くとる傾向がありました。男性では、1日20本以上の喫煙者の割合が、1杯未満のグループの29.4%に対し、5杯以上のグループでは40.9%でした。これらは計算で調整されていますが、質問票で測れなかったものは調整できません。調整しきれずに残る影響(残余交絡)は、観察研究では常に残ります。
男性の結果を、どう扱うか。 男性だけの解析では、1日5杯以上の倍率が1.5(1.0〜2.1)で、摂取量の増加に沿う正の傾向が報告されました(傾向の検定 p=0.03)。ただし、緑茶を飲むこと自体が胃がんを増やしたとは結論できません。理由を3つ挙げます。1つめ、観察研究です。緑茶をよく飲む男性は、緑茶以外のところも違います。観察された関連を、そのまま原因と結果に読み替えることはできません。2つめ、喫煙は多変量調整に含まれています。喫煙で層別すると、1日20本以上吸っている人で正の傾向(p=0.06)が見られましたが、緑茶と喫煙の交互作用の項は有意ではありませんでした(p=0.17)。つまり「男性の結果は喫煙のせいだ」とも決めつけられません。3つめ、男女で推定値の向きが違っても、それだけで「男女で効き方が違う」ことが示されたわけではありません。著者は本文で「男女を合わせても分けても、緑茶の摂取と胃がんのリスクに逆の関連はなかった」と書いており、男性のこの結果を緑茶の害として主張してはいません。
著者が挙げている限界は、3つです。
- 食物摂取頻度調査票の項目が少ない:総エネルギーやそのほかの栄養素を計算できませんでした。緑茶以外の食品はできるだけ調整したが、ほかの食習慣による残余交絡の可能性は否定できない、と書かれています。
- ピロリ菌の情報がない:ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は胃がんの強い危険因子ですが、参加者の感染歴は集められていません。本文には、研究地域の55〜64歳での抗体陽性率が男性88%、女性87%という数字が引用文献から示されています。これは地域の一部の年齢層についての値で、この研究の参加者を測ったものではありません。著者の考えはこうです。ピロリ菌による慢性胃炎のある人は緑茶を含む飲食を控えていたかもしれず、また緑茶に抗菌作用を示す研究もある。どちらの場合でも、緑茶をよく飲む人ほど感染率は低かったはずなので、ピロリ菌を考慮しなかったことが「本当はあった逆の関連」を覆い隠した可能性は低い、と述べています。これは著者の推論であって、測って確かめたことではありません。
- 参加者の16%が追跡不能:転出者の追跡を打ち切ったためです。ただし転出の割合は緑茶の量のグループで変わらなかったので、観察された関連への大きな影響はないと考える、と述べています。
著者が限界として挙げていないこと。 ここは書き分けが必要です。緑茶の量は、1984年のベースラインの質問票で測られています。追跡の途中で測り直したという記述は、本文にはありません。9年のあいだに飲み方が変わった人がいても、分類はベースラインのままです。この点を著者は限界として挙げておらず、むしろ質問票の妥当性と再現性(どちらも0.66)を長所として書いています。検出力(差を見つける力)についても、限界としての記述はありません。著者は、研究地域の発生率が高く追跡期間も十分長かったため多数の胃がんを把握できた、と長所の側に書いています。つまり、この節で書いた「幅が広い」という話は、著者が限界として掲げたものではなく、報告された数字から読み取れることです。
症例対照研究との食い違いについて。 この研究の前に報告されていた症例対照研究7件のうち、中国の2件と日本の2件が緑茶と胃がんの有意な逆相関を、中国の1件と日本の1件が有意でない逆相関を報告し、台湾の1件は緑茶を習慣的に飲む人で有意でないリスク上昇を報告していました。著者の説明はこうです。症例対照研究は過去にさかのぼって思い出してもらう研究なので、胃がんの患者は腹部の症状のために診断前に緑茶を減らしていた可能性がある。その結果、過去の摂取量を実際より少なく思い出し、見かけ上の逆相関が生まれたのかもしれない。根拠として、胃がんの患者は診断の2年前からお茶の摂取を減らすという研究と、昔の食事の思い出しの正確さは最近の食事に強く影響されるという指摘が引用されています。診断より前に飲む量を測っているこの研究は、その思い出しのゆがみを避けられる、というのが著者の挙げる長所です。これも著者の説明であり、症例対照研究の結果が思い出しのせいだと確かめられたわけではありません。
対象が限られています。 1984年に追跡を始めた、宮城県の3つの市町村の40歳以上の住民です。本文は、この地域を胃がんの発生率が高く、緑茶を飲む量のばらつきが大きい地域だと書いています。緑茶を1日5杯以上飲む人が42%を占めるという飲み方の集団でもあります。ここで得られた数字を、別の年代や別の国にそのまま当てはめることはできません。論文が発表されたのは2001年です。この記事は、この論文に書かれている範囲の話しかしていません。
最後に。この記事は、緑茶を勧めるものでも、控えるよう勧めるものでもありません。この論文が示したのは、1つの集団で観察された関連の有無と、その推定の幅までです。
元の論文の、どこを見ればよいか
読むときの手がかりを置いておきます。
- 主役の数字(2つの図の数字):Table 2 です。「Men and women」「Men」「Women」の3つのまとまりに分かれていて、それぞれ、胃がんの数、人年、性・年齢だけを調整した相対リスク、多変量調整の RR1(全例)、多変量調整の RR2(最初の3年の例を除く)の順に行が並びます。2つの相対リスクの図で使ったのは、多変量調整の RR1 の行です。記事の本文では、性別と年齢だけを調整した行、RR2 の行、胃がんの数と人年にも触れています。括弧の中が95%信頼区間だという説明は、表の脚注にあります。調整した変数の一覧も、同じ脚注です。
- 同じ数字の短い版:要旨の Results です。男女あわせた3つの倍率と幅、傾向の検定の p 値、最初の3年を除いた解析までが1段落に入っています。
- 誰が解析に残ったか(人数の図の数字):Methods の Study Cohort(配った人数、回答率、使える回答)と Follow-up(がん登録との照合、除外の手順、解析に入った26,311人と胃がん419例)です。
- 緑茶の測り方:Methods の Exposure Data です。5段階の分け方、1杯100 ml、「飲まない」と「ときどき」をまとめた理由、妥当性と再現性の0.66が、この順で書かれています。
- 計算の方法:Methods の Statistical Analysis です。人年の数え方、相対リスクの作り方、Cox 回帰、調整した変数、最初の3年を除く再解析、傾向検定の作り方が書かれています。
- 緑茶をよく飲む人はどんな人か:Table 1 です。緑茶の量ごとに、年齢、消化性潰瘍の既往、喫煙、飲酒、食習慣の割合が男女別に並びます。記事で挙げた喫煙の29.4%と40.9%は、男性の「Current(20本以上/日)」の行です。
- そのほかの解析:Results です。摂取量の分布、追跡不能16%、3年ごとに区切った解析、喫煙で層別した解析と交互作用の p 値、紅茶とコーヒーの結果が、この順に出てきます。
- 著者自身の限界:Discussion です。「Our study had some limitations.」で始まる段落から3つの限界が続き、そのあとにハワイの日系人の研究との比較、症例対照研究との食い違いの説明が来ます。結論の一文は、Discussion のいちばん最後です。
元の論文はこちらです。Tsubono Y ら. Green Tea and the Risk of Gastric Cancer in Japan. N Engl J Med. 2001;344(9):632-636. https://doi.org/10.1056/NEJM200103013440903
見方を練習するために
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この回で身につけたいのは、3つの手順です。その数字は何と何を比べた比なのか。幅はどこからどこまで伸びているのか。その幅の端を言葉に直すと、何が否定できていないのか。「関連なし」という見出しを見たとき、この3つを順に確かめるクセがつくと、強い言い方に振り回されにくくなります。下の本は、グラフや数字の見せ方でどんなことが起きるかを、身近な例で追える一冊です。
元の論文
Tsubono Y ら. N Engl J Med. 2001.
https://doi.org/10.1056/NEJM200103013440903
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