動画で話したこと
動画では、更年期のホルモン補充療法と血のかたまりの関係を調べた論文を紹介しました。飲み薬を今使っている人で、静脈の血栓が増えるという関連が見られた、という研究です。
芯にしたのは、数字の大きさではありません。同じ一つの関連が、三通りに書けるということです。
論文は、一つの文の中にこう並べています。ハザード比は1.6。1年あたりの絶対リスクの増加は0.09パーセント。1年使ったときに1件多く起きるまでに必要な人数は1055人。三つとも、別々の発見ではありません。同じ一つの推定を、言い方を変えて並べたものです。
この記事では、動画の尺に入らなかったものを足します。誰をどう分けて、いつ測ったのか。1.6という数字がどこから来て、何を指しているのか。動画で出さなかった脳梗塞と心筋梗塞の数字。貼り薬で一つだけ数字が上がった使われ方(あとで「黄体ホルモンの足し方」として説明します)と、それが論文の結論から消えていること。そして、著者自身が書いている限界です。
先に、この記事がしないことを書いておきます。この記事は、薬を始める、やめる、変えるという判断に一切踏み込みません。量や期間で分けた数字も出しますが、少ないほうがよい、短いほうがよい、という読み方はしません。論文がその数字を出している、という事実だけを書きます。気になることがあれば、主治医に相談してください。
誰を、どう分けて、いつ測ったか
くじ引きはありません
まず、この研究にはくじ引きがありません。観察研究です。誰かに飲み薬を割り当てた人も、貼り薬を割り当てた人もいません。
ですから、この記事には「割り付けどおりに比べた」も「実際に受けたかで分けて比べた」も出てきません。すでに薬を使っていた人と、使っていなかった人を、あとから登録データの上で比べています。この二つのグループは、はじめから同じではありません。論文自身も、症例のほうが対照より併存疾患を持つ割合が高かったと書いています。
入れ子症例対照研究という形
論文は自分の設計を、入れ子症例対照研究と呼んでいます。デンマークの全国の登録を使いました。
形はこうです。まず、対象になる女性の大きな集団を作ります。その中で、血栓を初めて発病した人を症例とします。次に、その症例が診断を受けた日を基準の日として、その日より前に血栓の診断がない人の中から、比べる相手を選びます。選び方は、生まれ年をそろえる発生密度マッチングです。症例1人につき5人を選びます。
この作業を、静脈の血栓、脳梗塞、心筋梗塞のそれぞれについて行います。危険集合は病気ごとにまとめられ、三つの別々のマッチ集団ができました。
人数はこうです。静脈の血栓は症例9807人と、比べた相手4万9035人。脳梗塞は症例1万8460人と、比べた相手9万2300人。心筋梗塞は症例1万1974人と、比べた相手5万9870人。年齢の中央値は、三つとも62歳でした。
ここに一つ、注意しておきたい点があります。論文は、発生密度サンプリングを使ったので、同じ人が複数回比べる相手に選ばれることがあり、その後に症例になることもある、と書いています。つまり4万9035という数が、異なる4万9035人を指すのかどうかは、本文の記述からは決まりません。論文は三つの数を並べたうえで「…women without thrombotic disease」と書いていて、この数を女性の数として扱っています。この記事もその書き方に従います。これ以上のことは、本文からは言えません。
なぜハザード比と呼ぶのか
統計に使ったのは条件付きロジスティック回帰です。ふつう、この方法から出てくるのはオッズ比です。
ところが論文は、これをハザード比として報告しています。理由も書いてあります。比べる相手を、症例が発病した時点でまだ血栓になっていない人の中から選ぶ、発生密度サンプリングという取り方をしたためです。この取り方をすると、条件付きロジスティック回帰の推定値は、Cox 比例ハザードモデルの推定値と等しくなります。
ですから、この記事に出てくる1.6も1.3も1.2も、発生率の比にあたるものです。人数の比ではありません。
誰を、はじめから外したか
対象は、2003年から2021年のデンマークに住む50歳から69歳の女性です。年齢の下限を50歳にした理由は、デンマークの閉経年齢の平均が51歳だからで、閉経後の女性をおもに捉えるためです。上限を70歳未満にしたのは、70歳以上ではホルモン補充療法の使用が少ないからです。
そのうえで、次の既往がある人ははじめから外しています。動脈または静脈の血栓、がん、肝臓の病気、血栓ができやすい体質、卵巣摘出、不妊治療、子宮内膜症、多嚢胞性卵巣症候群です。最後の一つについて、論文は新しい呼び名で書いていて、多嚢胞性卵巣症候群のほうは以前の呼び名だと断っています。この記事は、通りのよい以前の呼び名で書いています。
このうち「がん」には、論文が丸かっこで断っている例外があります。黒色腫以外の皮膚がんは、この除外の対象から外されています。動画のカードでは「血栓やがんなどの既往がある人は除いている」と畳みましたが、正確にはこの例外が付きます。
さらに、1994年より後にデンマークに移住した人も外しています。処方の登録が1995年に始まったため、それ以前の使用歴を確かめられないからです。
こうして残った女性が106万82人でした。
薬を使っていたかどうかを、何で決めたか
使っているかどうかは、処方の受け取り記録で決めています。デンマークでは全身に効く製剤はすべて処方が要るためです。
ここは大事な点です。論文はここに触れていませんが、記録にあるのは、薬局で受け取ったことまでです。実際に飲んだか、貼ったかは、この記録からは分かりません。これは本文の外から足した注意で、論文が限界として書いていることではありません。
「今使っている」の定義は、基準の日を含む90日以内に使っていたことです。90日というのは、以前の研究で使われてきた定義に合わせたものだと書かれています。
比べた相手は、一つのグループです
ここは、動画でも強く言った点です。
飲み薬の1.6も、貼り薬の0.9も、比べている相手は同じ一つのグループです。全身または局所のエストロゲン、黄体ホルモン、テストステロンのいずれも今使っていない女性で、ホルモン避妊薬と閉経前後の黄体ホルモン療法も含めて使っていない人たちです。
飲み薬を飲み薬でない人と比べ、貼り薬を貼り薬でない人と比べた、という形ではありません。どちらも、同じ一つの相手と比べています。
そして、飲み薬と貼り薬を直接比べた推定値は、本文にありません。あとで出てくる量の比較のように、論文が直接比べたところでは「In a direct comparison between the two groups」とはっきり書いています。飲み薬と貼り薬については、その書き方がありません。
そろえた条件
調整した項目は次のとおりです。年収、学歴、同居の状況。高血圧、心房細動、心筋症、心不全、弁膜症、糖尿病、甲状腺の病気、腎臓の病気、慢性閉塞性肺疾患、片頭痛、子宮摘出の既往。スタチンの使用、ビスホスホネートの使用。抗凝固薬、アスピリン、抗うつ薬、抗精神病薬の併用。
年齢は、生まれ年でマッチさせることでそろえてあります。
そして、BMI と喫煙の情報は、デンマークの登録にありません。この二つは調整されていません。
何を「発病」と数えたか
三つの病気は、こう定義されています。
静脈血栓塞栓症は、深部静脈血栓症(ICD-10 の I80.1 から I80.3)と、肺塞栓症(I26)です。脳梗塞は I63 と I64、心筋梗塞は I21 です。三つに共通して書かれているのは、病院で診断された初めての発病を数えた、というところまでです。特定には、デンマークの全国患者登録と、死因の登録が使われています。
そのうえで、静脈の血栓にだけ、もう一段の断りが付いています。病院の診療科、外来、救急部で診断されたものを取り、救急部だけで記録され、その後に内科系の診療科で確認されなかった診断は除く、という断りです。論文は、この条件を静脈血栓塞栓症の説明の中に置いていて、脳梗塞と心筋梗塞の説明には付けていません。この記事も、そのとおりに分けて書きます。ただしこれは論文の書き方の位置についての話で、実際の解析で三つに同じ扱いをしたかどうかまでは、本文からは分かりません。
ここで、動画の言い方を一つ訂正しておきます。動画では静脈の血栓を「足の深い静脈や、肺の血管が、血のかたまりで詰まる病気」と説明しました。「深い静脈」までは本文のとおりです。ただし「足の」という部位の限定は、本文には書かれていません。I80.1 から I80.3 がどの部位を指すかは、ICD-10 という別の決まりの側にある情報で、論文の中にはありません。本文だけから言えるのは「深部静脈の血栓と、肺塞栓症」までです。
論文は、これらの診断定義が以前に検証されていて、陽性的中率が高いとも書いています。静脈の血栓が88パーセント、脳梗塞が97パーセント、心筋梗塞が97パーセントです。
追跡した期間は、本文に三つ出てきます
ここは混ざりやすいところです。本文には、期間の中央値が三か所に出てきて、値が違います。別々のものを指しています。
一つめ。対象になった106万82人を追いかけた期間の中央値が9年(四分位範囲5年から14年)です。
二つめ。使っていない人での発病率を出したときの、その人たちの追跡の中央値が9年(四分位範囲4年から14年)です。四分位範囲が一つめと違います。
三つめ。表1の脚注にある6年(四分位範囲3年から10年)です。脚注は「study population」について、集団に入った時点から基準の日までの間隔だと書いています。表1は症例と対照を並べた表で、基準の日は症例と対照にしかありません。ですからこの6年は、症例と対照として選ばれた人たちの数字と読めます。ただし、この読み方はこの記事のもので、脚注そのものにはそこまで書かれていません。
この三つを一つにまとめて「9年追いかけた研究」と読まないでください。
この数字は、何を指しているか
土台になる発病率
倍率の話に入る前に、何の倍率なのかを置いておきます。
論文は、ホルモン薬を使っていない女性での発病率を書いています。1万人年あたり、静脈の血栓が15.8件、脳梗塞が20.3件、心筋梗塞が13.0件です。
1万人年というのは、1万人を1年追いかけたときに相当する量、という意味です。この土台の上に、倍率が乗ります。
倍率だけを見ていると、この土台が見えません。同じ1.6でも、土台が1年に100人に1人起きる病気か、1年に1万人あたり16人ほど起きる病気かで、実際に増える人数はまったく違います。この16人は、論文の1万人年あたり15.8件をこの記事が丸めたものです。
1.6 は、何と何の比か
飲み薬を今使っている人で、静脈の血栓のハザード比は1.6、95パーセント信頼区間は1.5から1.8でした。比べた相手は、さきほど書いた「今どのホルモン薬も使っていない人」です。
この1.6は、発生率の比にあたります。100人のうち60人に何かが起きる、という意味ではありません。使っていない人で起きる速さを1としたときに、飲み薬を今使っている人では1.6にあたる速さで起きていた、という関連です。
論文は年齢層で分けた値も書いています。50歳から59歳で1.7(1.5から2.0)、60歳から69歳で1.5(1.3から1.7)でした。どちらの層でも、増えるほうの向きが残っています。
0.09パーセントは、何の0.09か
同じ一つの関連を、別の言い方にしたのが0.09です。
論文の書き方は「an absolute risk increase per year of 0.09% (0.08 to 0.13%)」です。1年あたりの、絶対リスクの増加が0.09パーセント、という意味になります。
ここは日本語にするときに気をつけたいところです。これは「リスクが0.09パーセント増えた」ではありません。リスクそのものの差です。ですから「0.09パーセントポイント」と言うほうが、誤解が少なくなります。動画でもそう呼びました。この言い換えはこの記事と動画のもので、論文は「0.09%」と書いています。
0.09パーセントは、1年あたりで見て、1万人あたり9人にあたります。パーセントから人数への言い換えはこの記事がしたものですが、論文も図5に同じ形の数字を出しています。1年あたり、1万人の女性あたりの追加の発生が9件(8から13件)です。さきほどの土台が1万人年あたり15.8件だったことを思い出すと、桁が見えてきます。
1055 は、0.09 から作った数字ではありません
三つめの言い方が、1055です。
論文は「number needed to harm for one year of 1055 (95% CI 791 to 1266)」と書いています。1年使う人が1055人いれば、使わなかった場合に比べて静脈の血栓が1件多く起きる、という計算上の人数です。
ここで、やってはいけない読み方が一つあります。0.09パーセントから1055を逆算することです。
論文は、この人数の作り方を別のところに書いています。年齢ごとの調整済みハザード比と、使っていない人での発病率から計算した、とあります。つまり、画面に出ている0.09という丸めた数字を経由していません。
試しに、1を0.0009で割ると約1111になります。論文の1055とは違う数字です。この割り算はこの記事がしたもので、論文には出てきません。丸めた数字どうしを割り算でつなぐと、こうしてずれます。
1.6、0.09パーセントポイント、1055人で1件。三つとも同じ一つの関連の言い方ですが、三つとも同じ計算から出ているわけではありません。並んで書かれていることと、互いに割り算で導けることは、別のことです。
幅は、何を表しているか
1.6には1.5から1.8という幅が付いています。95パーセントの信頼区間です。
この幅が表しているのは、推定がどれくらい定まっていないか、です。参加した人たちのばらつきの幅ではありません。95パーセントの確率で本当の値がこの中にある、という意味でもありません。
倍率の指標なので、差がない位置は0ではなく1です。幅が1をまたいでいれば、この研究のデータだけでは、増えるとも減るとも言い切れなかった、ということになります。またいでいなくても、それは「原因だと分かった」という意味にはなりません。
なお、この幅には、測っていない要因のずれは入っていません。BMI と喫煙が調整されていないことによるずれは、この1.5から1.8の中には含まれていません。信頼区間が狭いことと、推定が正しいことは別です。
結果を、幅で見る
まず、誰が薬を使っていたか
倍率を見る前に、この研究がどちら向きに数えているかを見ておきます。
今ホルモン薬を使っていた人の割合:静脈の血栓になった人と、比べた相手
左の100個の点が、静脈の血栓になった人です。色が付いた点が、そのうち今ホルモン薬を使っていた人にあたります。100人のうち7人です。
右の100個の点が、同じ生まれ年で選ばれた比べた相手です。色が付くのは100人のうち5人です。
向きに注意してください。この図が並べているのは、薬を使った人のうち何人が血栓になったか、ではありません。血栓になった人のうち何人が薬を使っていたか、です。症例対照研究は、この向きで数えます。
だから、この図から病気になる確率は読めません。読めるのは、症例のほうが比べた相手より、薬を使っていた人の割合が高かった、というところまでです。
そして7を5で割っても1.4にしかならず、論文の1.6にはなりません。1.6は、この二つの割合から出したものではないからです。この割り算はこの記事がしたもので、論文には出てきません。
| 静脈の血栓になった人(9807人) | 100人中 7人 |
|---|---|
| 比べた相手(4万9035人) | 100人中 5人 |
論文の数字は7.3パーセントと4.7パーセントで、この図は整数に丸めて7人と5人にしています。丸めたことで、二つのちがいは実際より小さく見えています。これは年齢以外の条件をそろえる前の、そのままの割合です。この二つの数から割り算をしても、あとの図に出てくる1.6にはなりません。1.6は条件を調整したうえで別に推定した値です。 数字の見方を学ぶための図で、個人の予測ではありません。
論文のどこ:論文の Results の、Table 2 を紹介している段落です。もとの人数と割合は Table 2 にあります
ついでに、使っていた人の内訳も見ておきます。三つのマッチ集団を合わせた今の使用者1万2038人のうち、88パーセントが飲み薬でした。合剤(エストロゲンと黄体ホルモンの組み合わせ)が73パーセントで、そのうち72パーセントは黄体ホルモンを連続して使う形でした。エストラジオールを含む薬が96パーセントを超えていました。
貼り薬の人は、もともと少ないということです。静脈の血栓の集団でいうと、貼り薬を使っていたのは症例53人、比べた相手307人でした。
飲み薬:三つの病気
動画では静脈の血栓だけを扱いました。論文は三つを調べています。
飲み薬を今使っている人の、三つの病気のハザード比
まず横の目盛りを見てください。縦に立っている線が1です。倍率の指標なので、ここが差のない位置になります。丸が推定値、横に伸びる棒がその幅です。
一つめ、静脈の血栓です。1.6、幅は1.5から1.8。動画で扱ったのはこの行だけでした。1年あたりの絶対リスクの増加は0.09パーセント(0.08から0.13パーセント)で、1年使う人が1055人(791から1266)いれば1件多い計算になります。
二つめ、脳梗塞です。1.3、幅は1.2から1.4。1年あたりの絶対リスクの増加は0.06パーセント(0.04から0.08パーセント)で、人数に直すと1642人(1232から2463)です。
三つめ、心筋梗塞です。1.2、幅は1.1から1.3。1年あたりの絶対リスクの増加は0.03パーセント(0.01から0.04パーセント)で、人数に直すと3846人(2564から7692)です。
三つとも幅が1をまたいでいません。ただし、倍率が下に行くほど小さくなっていることと、人数が下に行くほど大きくなっていることは、同じことを裏表で言っています。倍率が小さいほど、1件多く起きるまでに必要な人数は増えます。
そして、この三つの行を上下に比べるときは気をつけてください。土台の発病率が病気ごとに違います。使っていない人での1万人年あたりの発病率は、静脈の血栓15.8件、脳梗塞20.3件、心筋梗塞13.0件でした。倍率の大小と、実際に増える人数の大小は、そのままでは対応しません。
| 静脈の血栓 | 1.6(1.5 〜 1.8) |
|---|---|
| 脳梗塞 | 1.3(1.2 〜 1.4) |
| 心筋梗塞 | 1.2(1.1 〜 1.3) |
| 差がない位置 | 1 |
1が差のない位置です。倍率の指標なので、0ではなく1に線が引かれています。三つとも、比べた相手は同じ「今どのホルモン薬も使っていない人」です。三つの病気のあいだで直接比べた数字ではありません。幅は95パーセントの信頼区間で、推定がどれくらい定まっていないかを表します。この部品は各行に「幅は1をまたいでいる/いない」と自動で表示しますが、これは目盛りとの位置関係を機械的に書いたものです。効果の大きさや、原因かどうかの判定として読まないでください。
論文のどこ:論文の Results の Venous thromboembolism、Ischaemic stroke、Myocardial infarction の、それぞれ最初の段落です。図は Fig. 1、Fig. 2、Fig. 3 に、絶対リスクの増加と number needed to harm は Fig. 5 に案内されています
年齢層で分けた値も、三つとも本文にあります。脳梗塞は50歳から59歳で1.3(1.2から1.5)、60歳から69歳で1.3(1.2から1.4)。心筋梗塞は50歳から59歳で1.2(1.0から1.4)、60歳から69歳で1.2(1.0から1.3)でした。心筋梗塞のほうは、どちらの層でも幅の下端が1に届いています。
なお、年齢層ごとの number needed to harm は、論文の図5の中だけにあり、本文の地の文には出てきません。この記事は、地の文にある全体の1055、1642、3846の三つだけを扱います。
貼り薬:三つとも、増えるとは言えなかった。ただし、一つだけ
貼り薬については、三つの病気のどれでも、増えるという関連は見られませんでした。静脈の血栓が0.9(0.7から1.2)、脳梗塞が1.0(0.8から1.2)、心筋梗塞が1.0(0.7から1.3)です。
ここで、論文の分け方を一つ整理しておきます。論文は、飲み薬か貼り薬かという分け方とは別に、黄体ホルモンをどう足すかでも分けています。エストロゲンだけの薬、黄体ホルモンを連続して足す薬、黄体ホルモンを周期的に足す薬の三つです(表2では、どちらか分からないものを含めて四つに分かれています)。この記事では、この分け方を「黄体ホルモンの足し方」と呼びます。飲み薬か貼り薬か、とは別の話です。
そのうえで、心筋梗塞のところだけ、論文は「However」で始まる一文を足しています。黄体ホルモンの足し方で分けると、黄体ホルモンを周期的に足す貼り薬を今使っている人で、心筋梗塞の発生率が高かった、という記述です。
貼り薬を今使っている人の、三つの病気のハザード比と、一つだけ上がった黄体ホルモンの足し方
縦の線が1です。上の三つが、貼り薬を今使っている人全体の値です。
静脈の血栓が0.9、幅は0.7から1.2。脳梗塞が1.0、幅は0.8から1.2。心筋梗塞が1.0、幅は0.7から1.3。三つとも幅が1をまたいでいます。
またいでいる、というのは「増えていないと分かった」ではありません。この研究のデータでは、増えるとも減るとも言い切れなかった、という形です。幅の右端を見てください。1.2や1.3まで届いています。
幅が広いのは、人数が少ないからです。今使っている人のうち88パーセントは飲み薬でした。静脈の血栓の集団でいえば、貼り薬を使っていたのは症例53人、比べた相手307人です。
いちばん下の行が、論文が例外として書いた一つです。貼り薬のうち、黄体ホルモンを周期的に足す形だけを取り出すと、心筋梗塞は2.1、幅は1.1から4.1。この行だけ1をまたいでいません。
ただし、この行の幅は1.1から4.1まであります。ほぼ差がないところから、4倍を超えるところまで入っています。論文の図でこの行にあたる人数は症例12人・対照34人で、著者自身が、この推定値は乏しいデータにもとづくと書いています。上の三つと同じ重さで読める数字ではありません。
| 貼り薬 全体:静脈の血栓 | 0.9(0.7 〜 1.2) |
|---|---|
| 貼り薬 全体:脳梗塞 | 1.0(0.8 〜 1.2) |
| 貼り薬 全体:心筋梗塞 | 1.0(0.7 〜 1.3) |
| 貼り薬のうち、黄体ホルモンを周期的に足す形:心筋梗塞 | 2.1(1.1 〜 4.1) |
| 差がない位置 | 1 |
1が差のない位置です。四つとも、比べた相手は同じ「今どのホルモン薬も使っていない人」です。飲み薬と貼り薬を直接比べた数字ではありません。いちばん下の行は、貼り薬のうち黄体ホルモンを周期的に足す形だけを取り出した心筋梗塞の値で、論文の図3にあたる行の人数は症例12人・対照34人です。著者自身が、この推定値は乏しいデータにもとづくと書いています。この部品は各行に「幅は1をまたいでいる/いない」と自動で表示しますが、またいでいるという表示は「関連がないと分かった」という意味ではありません。
論文のどこ:論文の Results の Venous thromboembolism の最後、Ischaemic stroke の最後、Myocardial infarction の後半です。いちばん下の行の推定値は要旨の結果の欄と Fig. 3 に、症例と対照の人数は Fig. 3 にあります
要旨は例外を書き、論文末の結論は書いていません
ここが、この論文でいちばん目を引いたところです。
論文の中で、この例外がどう扱われているかを並べてみます。
要旨の結果の欄には、はっきり書かれています。貼り薬は血栓の増加と関連しなかった、ただし黄体ホルモンを周期的に足す貼り薬での心筋梗塞の増加は例外である、という形で、ハザード比2.1(1.1から4.1)まで載っています。
一方、要旨の結論の欄には、貼り薬では血栓の危険の増加は見られなかった、とだけ書かれています。例外は出てきません。
論文の冒頭にある「この研究が付け加えること」の箱では、貼り薬は量と使用期間によらず血栓の危険の上昇と関連しなかった、と書かれています。ここで挙げられているのは量と使用期間だけで、黄体ホルモンの足し方は挙げられていません。例外が出たのは黄体ホルモンの足し方で分けたときなので、この一文は例外と食い違ってはいません。
考察の冒頭の「主な所見」では、貼り薬は静脈の血栓、脳梗塞、心筋梗塞のいずれとも関連しなかった、と書かれています。
そして論文の最後の結論では、貼り薬は黄体ホルモンの足し方、有効成分、量、使用期間によらず、血栓の増加と関連しなかった、と書かれています。ここには「黄体ホルモンの足し方によらず」が入っています。結果の節で、黄体ホルモンの足し方で分けたときに一つだけ上がったと書いたのと、正面から食い違います。
この食い違いを、どう受け取るかは読む人しだいです。例外は症例12人にもとづく不安定な推定なので、結論から落としたのは判断としてありうることです。ただ、要旨の結果を読んだ人と、結論だけを読んだ人とで、持ち帰るものが変わります。
そして、要旨の結論だけを読んで終える人もいます。
この記事はここから、貼り薬のほうが安全だ、という話には進みません。理由は次の節で書きます。
量、期間、始めた年齢で分けた数字
ここから先は、動画では尺のために落とした部分です。
先に、この節の読み方を決めておきます。この記事は、論文がこれらの数字を出している、という事実を書きます。量を減らしたほうがよい、期間を短くしたほうがよい、といった読み方はしません。どの薬をどう使うかは、この記事が扱える範囲の外にあります。
量で分けた
論文は、量を二つに分けています。飲み薬は1日1mg以下と1mg超、貼り薬は1日50µg以下と50µg超です。
飲み薬の使用者のうち60パーセントが1日1mg超を使っていました。貼り薬の使用者のうち56パーセントが1日50µg以下でした。
ここでは、論文が明示的に直接比べています。静脈の血栓では、飲み薬の高い量は、低い量と比べて発生率が高いことと関連していて、そのハザード比は1.3(1.1から1.6)でした。
脳梗塞では、使っていない人と比べたときに、飲み薬の高い量が1.5(1.4から1.6)、低い量が1.0(0.9から1.1)でした。高い量と低い量を直接比べると1.5(1.3から1.7)、P は0.001未満です。
心筋梗塞では、使っていない人と比べたときに、飲み薬の高い量が1.4(1.2から1.6)、低い量が0.9(0.8から1.1)でした。直接比べると1.5(1.2から1.8)、P は0.001未満です。
なお、脳梗塞の量の比較について書いた一文には、原文に脱字があります。増加を表す語が抜けています。この記事はその一文を引用せず、数字と比べ方だけを書きました。
期間で分けた
期間と開始年齢は、別の下位集団で調べられています。新しく使い始めた人を取り出した集団です。1996年1月1日より前に始めた人を除き、使い始めの時点を正しく取れるようにしてあります。
静脈の血栓では、推定値が最も高かったのは、飲み薬の高い量を使い始めた最初の1年でした。使っていない人と比べて3.2(2.3から4.3)です。
脳梗塞と心筋梗塞では、期間との関係の向きが違います。使っていない人と比べて上がったのは、飲み薬の高い量をそれぞれ1年超、5年超使ったときだけで、5年超でいちばん高くなりました。脳梗塞が1.8(1.4から2.2)、心筋梗塞が1.8(1.4から2.4)です。
ここまでは、比べた相手が「今どのホルモン薬も使っていない人」です。
論文はもう一つ、別の比べ方をしています。飲み薬の高い量を今使っている人の中だけで、5年超使っている人を1年未満の人と比べたものです。
飲み薬の高い量を今使っている人の中で、5年超を1年未満と比べたとき
まず、比べた相手が変わったことを確かめてください。この三つは、飲み薬の高い量を1年未満使っている人と比べた値です。使っていない人と比べた値ではありません。
心筋梗塞は1.9、幅は1.2から3.0。1をまたいでいません。
脳梗塞は1.4、幅は1.0から2.1。下端が1に届いています。
静脈の血栓は0.6、幅は0.4から0.9。1より下にあります。三つの向きがそろっていません。
この0.6を「長く使うほど静脈の血栓は減る」と読まないでください。比べた相手は、同じ飲み薬の高い量を1年未満使っている人です。そして使っていない人と比べたとき、論文は、飲み薬は量にも期間にも関係なく静脈の血栓の増加と関連していた、と書いています。比べる相手が変われば、同じデータから違う向きの数字が出ます。
なお論文は、追跡の期間(2年未満、2年から5年、5年超)によって関連が変わる証拠はなかったとも書いています。尤度比検定の P は、三つの病気で0.39、0.37、0.23でした。ここでいう追跡の期間は、薬を使った期間とは別のものです。
| 心筋梗塞 | 1.9(1.2 〜 3.0) |
|---|---|
| 脳梗塞 | 1.4(1.0 〜 2.1) |
| 静脈の血栓 | 0.6(0.4 〜 0.9) |
| 差がない位置 | 1 |
1が差のない位置です。この三つは、新しく使い始めた人だけを取り出した下位集団で計算されたものです。そしてこの図の三つは、ここまでの図とは比べた相手が違います。ここまでの図は「今どのホルモン薬も使っていない人」と比べたものでしたが、この図は「飲み薬の高い量を1年未満使っている人」と比べたものです。高い量は1日1mg超のエストラジオールです。この図は、量や期間の選び方についての手引きではありません。論文がこの三つの数字を出している、という事実を示すだけのものです。この部品は各行に「幅は1をまたいでいる/いない」と自動で表示しますが、これは目盛りとの位置関係を機械的に書いたものです。
論文のどこ:論文の Results の Treatment duration and age at treatment initiation の、二つめの段落です。この三つの数字は、その段落の文章の中にあります。Fig. 4 の各行は「今どのホルモン薬も使っていない人」と比べた値なので、この三つは図には載っていません
飲み薬の低い量と、どの貼り薬も、期間によらず脳梗塞や心筋梗塞の増加とは関連しませんでした。
始めた年齢で分けた
飲み薬での静脈の血栓の増加は、始めた年齢によらず同じようだった、と書かれています。
脳梗塞と心筋梗塞では、推定値がいちばん高かったのは50歳より前に始めた人でした。使っていない人と比べて、脳梗塞が1.5(1.3から1.8)、心筋梗塞が1.5(1.2から1.8)です。量と期間でさらに分けても変わらなかった、とあります。
ただし、この数字には著者自身の注釈が付いています。閉経の年齢の情報がないことが限界で、50歳より前に始めた人で観察された高い推定値は、その薬が選ばれた理由による偏りや、閉経の経過に関わる元々の危険の違いを、一部映しているかもしれない、というものです。
つまり著者は、この数字をそのまま「早く始めると危ない」とは読んでいません。
なお、59歳より後に始めた人の推定値は、人数が少なく精度が低いので慎重に読むべきだ、とも書かれています。
過去に使っていた人
もう一つ、あとで効いてくる数字があります。
基準の日の5年前から90日前までのあいだに使っていた人、つまり過去に使っていて今は使っていない人では、三つとも増加との関連が見られませんでした。飲み薬で、静脈の血栓が0.9(0.8から1.0、P は0.01)、脳梗塞が1.0(0.9から1.1、P は0.89)、心筋梗塞が1.0(0.9から1.1、P は0.88)です。
論文はこれを、増加との関連はなかった、と書いています。
著者が、自分で先回りしている反論
「その薬が選ばれた理由による偏り」への反論
観察研究で薬の話をするとき、いちばんよく出る疑問はこれです。薬を使う人と使わない人は、はじめから違う人たちなのではないか、という疑問です。
論文は、この疑問に先回りして答えています。答え方が少し変わっているので、書き方ごと紹介します。
まず著者は、生活習慣による残差交絡を完全には除けない、と認めます。そのうえで、それが主な説明だとは考えにくい理由を並べます。
一つめ。もし選ばれ方の偏りが結果を動かしているのなら、いちばんありそうな形は、健康な人ほどホルモン薬を使いやすい、という形になるはずです。ところが実際には、貼り薬のほうが、元々の心血管の危険が高い人に優先して処方されることが多いと書かれています。それなのに、増加が見られたのは飲み薬のほうで、貼り薬では見られませんでした。偏りの向きと、結果の向きが合いません。
二つめ。BMI や喫煙は、変わりにくい特徴です。もしこれらが結果を作っているなら、今使っている人にも、過去に使っていた人にも同じように効くはずです。ところが、過去に使っていた人では増加が見られませんでした。
三つめ。2002年の Women's Health Initiative の公表より前の期間に限った解析でも、同じような結果でした。
四つめ。飲み薬での血栓の増加は、生活習慣による交絡が小さい無作為化比較試験の結果とも合っています。
この四つは、どれも「だから因果だ」の証明ではありません。著者もそこまでは書いていません。書いているのは、選ばれ方の偏りだけでこの結果を説明するのは難しい、というところまでです。そして論文は別のところで、観察研究である以上、残差交絡と測っていない交絡は残りうる、とも書いています。
ここは、論文の読み方の練習としてよくできた箇所です。著者は「偏りはない」と言っているのではなく、「偏りがあるとしたら、向きが合わない」と言っています。前提を一つずつ置いて、観察された形と突き合わせる、という論の立て方です。
貼り薬が肝臓を通らないという説明
論文は、飲み薬と貼り薬で結果が違ったことについて、仕組みの説明も添えています。
外から入るエストロゲンは、静脈血栓塞栓症の発生に関わる複数の凝固因子を増やし、血が固まりやすい状態を作ることが知られている、とあります。動脈側への影響はよく分かっていないものの、試験のあとの解析では、飲み薬のエストロゲンと黄体ホルモンの合剤が動脈硬化を進めるかもしれないと示されている、とも書かれています。
そして貼り薬については、肝臓の初回通過代謝を迂回する、と書かれています。初回通過代謝は、血が固まりやすくなる因子を肝臓で作る量を増やすと考えられており、飲み薬と貼り薬で危険の姿が違うことの、もっともらしい説明になる、という書き方です。
ここで立ち止まってください。
この説明は、「だから貼り薬に変えれば安全だ」を意味しません。理由は三つあります。
一つめ。論文の書き方が、そもそも断定ではありません。増やすと考えられている、もっともらしい説明になる、という言い方です。
二つめ。この研究は、飲み薬と貼り薬を直接比べていません。0.9と1.6は、それぞれ別に、同じ一つの相手と比べた値です。
三つめ。貼り薬の三つの推定は、どれも幅が1をまたいでいます。増えていないと分かったのではなく、言い切れなかった、という形です。そして、黄体ホルモンを周期的に足す貼り薬と心筋梗塞の組み合わせでは、幅が1をまたがない値が出ています。
仕組みの説明は、結果と辻褄が合うかを確かめるためのものです。結果そのものの確かさを、それだけで高めるものではありません。
なお論文は、これらの知見が臨床の実践に情報を与え、医師と患者が根拠にもとづく判断をするのを助けうる、とも書いています。ただ、その判断は、一人ひとりの事情を知っている人のあいだで行われるものです。この記事はそこには踏み込みません。
この研究では言えないこと
動画では限界を一つだけ挙げました。ここでは広げます。
一つめ。観察研究です。くじ引きで薬を割り当てた試験ではありません。著者自身が、観察研究である以上、残差交絡と測っていない交絡は残りうる、と書いています。
二つめ。BMI と喫煙の情報がありません。著者は、この二つがないことで関連を過小評価している可能性がある、と書いています。向きに注意してください。1.6が水増しされている、という話ではありません。心血管の危険因子がある人には医師がホルモン薬を出しにくいため、実際の関連はもっと強いかもしれない、という向きです。そのうえで著者は、この偏りは小さいとみている、とも書いています。社会経済的な状況と学歴を考慮に入れており、デンマークではそれらが BMI と喫煙と強く相関するから、という理由です。著者が「小さい」と言っているのは、BMI と喫煙が無いことによる偏りに限った話で、観察研究であること全体ではありません。
三つめ。閉経の年齢が分かりません。著者はこれを限界として挙げ、50歳より前に始めた人の高い推定値と、長期・高用量の結果については、その薬が選ばれた理由による偏りや、元々の危険の違いを一部映しているかもしれない、と書いています。
四つめ。薬を実際に使ったかどうかは分かりません。判定は処方の受け取り記録です。
五つめ。結果はエストラジオールを含む薬についてのものです。結合型エストロゲンの使用がごくわずかだったため、この結果はエストラジオールの製剤に特に当てはまる、と書かれています。ほかの成分の薬について、この研究から言えることはありません。なお論文は、エストラジオールは結合型エストロゲンやエチニルエストラジオールよりリスクの面で有利だと一般に考えられている、とも書いています。ほかの成分なら安全だ、という向きの記述ではありません。
六つめ。デンマークの集団です。民族的にほぼ同質の集団で行われたもので、遺伝的背景、血栓の元々の危険、医師の処方の習慣の違いが、関連に影響しうると書かれています。解析はデンマークでよく使われたエストラジオールと合成黄体ホルモンの製剤に絞られていて、デンマークで使用が増えている生物学的に同一のプロゲステロンなど、ほかの治療の影響は捉えていません。日本での処方の実態や、日本人での結果は、この論文には一切出てきません。
七つめ。飲み薬と貼り薬を直接比べた数字がありません。この研究から「飲み薬より貼り薬のほうが安全だ」という比較を読み取ることはできません。
八つめ。貼り薬の人数が少ないため、貼り薬の推定は定まっていません。幅が1をまたいでいることは、増えていないと分かったことを意味しません。
九つめ。これは限界というより数え方の話ですが、比べた相手の4万9035人が異なる4万9035人なのかどうかは、本文から確定できません。同じ人が複数回選ばれることがある、と書かれているためです。
最後に、資金と利益相反も書いておきます。この研究は資金を受けていません。著者のうち3人は、製薬会社や財団から講演料、研究費、学会の旅費などを受けたと申告しています。
元の論文の、どこを見ればよいか
手がかりを置いておきます。節の名前は論文のままです。
- 研究デザイン、対象、除外した既往、追跡の始めと終わり:Methods の Study cohort です。がんの例外は、除外を並べた文の丸かっこの中にあります。
- 症例と対照の選び方、三つの病気の定義、診断の当たりやすさ:Methods の Cases and controls for thrombosis です。
- 今使っているの定義、処方の受け取りで判定していること、量の推定の仕方:Methods の Menopausal hormone therapy です。
- 調整した項目の一覧、BMI と喫煙がないこと:Methods の Confounding factors です。最後の一文が該当します。
- ハザード比として報告する理由、比べた相手の定義、期間と開始年齢のための下位集団、number needed to harm の作り方、感度分析の中身:Methods の Statistical analysis です。number needed to harm の作り方は、この節のうしろのほうにあります。
- 対象者の人数と追跡の中央値、症例と対照の人数:Results の最初の文です。本文では表1をはさんで続いています。表1の脚注には、別の追跡期間の中央値が書かれています。
- 使っている人の内訳(飲み薬88パーセント、合剤73パーセント、エストラジオール96パーセント超)と、症例と対照での使用割合:Results の、Table 2 を紹介している段落です。
- 使っていない人での発病率(15.8、20.3、13.0):Results の、Venous thromboembolism の見出しの直前の段落です。
- 静脈の血栓の1.6、0.09パーセント、1055、年齢層別、量の比較、貼り薬の0.9:Results の Venous thromboembolism です。図は Fig. 1 と Fig. 5。
- 脳梗塞の1.3、0.06パーセント、1642、量の比較、貼り薬の1.0:Results の Ischaemic stroke です。図は Fig. 2 と Fig. 5。
- 心筋梗塞の1.2、0.03パーセント、3846、量の比較、貼り薬の1.0、そして黄体ホルモンの足し方で分けたときの例外(黄体ホルモンを周期的に足す貼り薬):Results の Myocardial infarction です。図は Fig. 3 と Fig. 5。例外の推定値と人数は Fig. 3 の中にあります。
- 使い始めてからの期間と、始めた年齢:Results の Treatment duration and age at treatment initiation です。図は Fig. 4。
- 過去に使っていた人:Results の Additional sensitivity analyses の最初の段落です。
- 強みと限界、著者が「その薬が選ばれた理由による偏り」に反論しているところ、閉経の年齢が分からないこと、デンマークの集団であること:Discussion の Strengths and limitations です。
- 凝固因子の話と、貼り薬が肝臓の初回通過代謝を迂回するという説明、臨床への含意:Discussion の Comparison with other studies の終わりのほうです。
- 結論:Discussion の Conclusion です。要旨の結論の欄と読み比べてみてください。
- 資金と利益相反:本文のあとの Funding と Competing interests です。
補足資料(supplementary appendix)と、図の中の数字は、この記事を書いた時点でほとんど手元にありません(Fig. 3 の中の、黄体ホルモンを周期的に足す貼り薬の推定値と人数と、Fig. 5 の中の、1年あたり1万人あたりの追加の発生の数だけは読み取れました)。本文が「補足資料を参照」とだけ書いている数字は、この記事では扱っていません。図5の年齢層ごとの number needed to harm は、どの数字がどの年齢層のものかを確かめられなかったので、扱っていません。
元の論文はこちらです。Berggreen J ら. Contemporary menopausal hormone therapy and thrombotic disease: nationwide nested case-control study. BMJ. 2026. https://doi.org/10.1136/bmj-2026-100688
見方を練習するために
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この回の柱を、持ち帰れる形にします。数字を見たときに、順に当てる三つの問いです。
一つめ。倍率を見たら、1年で何ポイント増えるのかを探す。この論文は、その両方を同じ文の中に書いてくれています。1.6と、0.09パーセントポイントです。片方しか書かれていない記事を読んだときは、書かれていないほうを探してください。土台の発病率が分かれば、倍率から実際の人数の感じがつかめます。
二つめ。比べた相手を確かめる。この論文には、少なくとも三種類の比べ方が出てきました。今どのホルモン薬も使っていない人と比べたもの。飲み薬の高い量と低い量を比べたもの。飲み薬の高い量を1年未満使っている人と比べたもの。同じデータから、比べる相手を変えると、静脈の血栓の数字は1.6にも1.3にも0.6にもなります。倍率だけが切り取られて流れてきたとき、いちばん最初に失われるのがこの情報です。
三つめ。要旨の結果と、結論を読み比べる。この論文では、要旨の結果に書かれていた例外が、論文末の結論からは消えています。消えたことに理由がないとは限りません。症例12人の推定は不安定です。ただ、どちらを読んだかで持ち帰るものが変わる、ということは知っておいてよいはずです。
下の本は、同じ数字が見せ方しだいでまるで違う印象になることを、身近な例から順に見せたものです。この記事でやったことは、その考え方を、一本の論文の中の三つの言い方に当てはめただけです。
最後にもう一度だけ書いておきます。この本は、この論文を疑うために挙げているのではありません。この論文は、例外も、幅の広さも、BMI と喫煙がないことも、閉経の年齢が分からないことも、本文に書いています。気をつけたいのは、こうした結果が論文の外に出て、倍率の数字だけが切り取られたときです。
そして、この記事は薬の選び方についての記事ではありません。数字の読み方についての記事です。気になることがあれば、主治医に相談してください。
元の論文
Berggreen J ら. BMJ. 2026.
https://doi.org/10.1136/bmj-2026-100688
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