動画で話したこと
動画では、走るときの着地の型と、アキレス腱の痛みの起こりやすさを調べた論文を紹介しました。
先に、いちばん大事なところを書きます。
かかとから着く人も、足の真ん中から着く人も、つま先から着く人も、1年のあいだに医師がアキレス腱症と診断する起こりやすさに違いは見られませんでした。チェコの大人911人を1年追いかけた前向きの観察研究です。
診断が付いたのは23人で、その内訳はかかと18人、足の真ん中4人、つま先1人でした。診断が付かなかった888人の割り振りは、かかと738人、足の真ん中102人、つま先48人で、よく似ていました。差の検定は p=0.56、多重比較を調整したあとは p=1.00 です。
着地の型について著者が考察で書いているのは、2つのグループで型の割り振りが似ていたことと、「着地の型(かかと、足の真ん中、つま先)は、アキレス腱症の起こりやすさの高さと結びついていなかった」ということです。
そして動画がくり返し言ったのが、ここです。着地を変えれば痛みが減るのか、この研究は調べていません。走り方をくじ引きで割り当てていないので、「変えたらどうなるか」には答えが出ない形をしています。
代わりに関連が見られたのは、足首の動きと、走る距離でした。足首を内側に返す力がばらつき1つ分だけ強い人では0.33倍、足が地面についているあいだの足先の外向きの回りがばらつき1つ分だけ小さい人では2.20倍、走る距離が週に12.5キロ増えるごとに1.67倍です。
短い動画で話せたのは、ここまでです。
この記事では、そこから先に進みます。誰を、どう測って、いつ数えたのか。着地の型は論文の中でどう報告されているのか。倍率と幅は何を指しているのか。動画が時間の都合で出せなかった数字を並べます。
先に3つ、書いておきます。
この研究が測ったのは、医師が診断したアキレス腱症だけです。ほかの部位の症状については、何も分かりません。追跡のあいだに足・足首・すねの症状を申告したものの診断が付かなかった人は、比べる相手から外されています。なお、この記事がこのあと「アキレス腱の痛み」と書いているところは、すべて「1年のあいだに医師がアキレス腱症と診断したこと」を指します。
「関係がなかった」と「変えても減らない」は、別の話です。この記事では、どちらにも言い切りません。関連が見られた足首の動きと走る距離についても同じで、こちらも割り当てていないので、変えたらどうなるかは分かりません。
この記事は、走り方や練習量について、どうすればよいかを助言するものではありません。扱うのは、1つの論文の中にある人数と倍率と、その幅の読み方だけです。
誰を、どう分けて、いつ測ったか
くじ引きはありません
この研究は前向きのコホート研究です。まず実験室で、参加者がもともとしている走り方を1度だけ測り、そのあと1年先まで追いかけて、アキレス腱の痛みが出た人を数えています。
参加者をくじ引きで2つに分けて、片方にかかと着地をさせ、片方にはつま先着地をさせる、という場面はどこにもありません。
ですから、薬や治療の試験でよく出てくる「割り付けどおりに比べたのか、実際に受けたかどうかで比べたのか」という区別は、この研究には当てはまりません。割り付けそのものが無いからです。
このことは、着地の型だけの話ではありません。足首の動きも、走る距離も、研究者が決めて割り当てたものではありません。足首の動きは、実験室で測ったその人の走り方です。走る距離は、追跡の1年に実際に走った量です。どちらも、研究者が「あなたは週に何キロ走ってください」と指定したものではありません。
この区別は、あとで出てくる3つの倍率をどう読むかに直接ひびきます。著者自身が限界の節で、測っていない要因による残りの交絡がありうることと、こうした限界は観察研究すべてに共通することを書いています。
誰を集めたか
参加者の募集は、公募で選ばれた社会調査・マーケティングの会社に委託されています。集め方は割当抽出で、年齢、性別、地域、運動の習慣(走る人か走らない人か)で枠を決めて埋めています。募集の経路は、SNS の有料広告、現地の面接員、ランニング大会での募集、新聞広告です。
走る人として入る条件は、世界保健機関の推奨(中強度の運動を週150分、または高強度を週75分、あるいはその組み合わせ)を満たしていて、6週間以上走っていて、週10キロ以上走っていることです。60歳を超える人は週6キロ以上です。
走らない人として入る条件は、走ることはできるものの、世界保健機関の推奨を満たしていないことです。走らない人を入れた理由も書かれています。アキレス腱症は走る人だけのものではなく、運動していない人でもアキレス腱の構造が変わりうることが先行研究で示されているため、そして Fitbit のデータを見ると走らない人の中にも走る機会のある人がいたためです。
除いたのは、タバコを吸う人、過去6週間に運動を妨げる急性の問題(手術、痛み、ケガなど)や急性の病気があった人、そして MRI か、体の組成を測る検査(DXA)が受けられない人です。
地域はチェコ国内で、環境条件が対照的な地域から選ばれています。チェコで平均寿命がもっとも短い地域のひとつであるモラビア・シレジア地域も含まれていて、この地域は社会経済的な状況が低く、大気汚染が長く続いていると書かれています。謝礼は2000から2300チェコ・コルナ、機器を持っていない人には最長1年スマートフォンが貸し出されています。
募集の流れは、こうなっています。募集の質問票への回答の試行が8368件、そこから候補として5115人、4HAIE 研究の測定に適したのが1315人、そしてこの解析に入ったのが911人です。
911人の内訳は、平均37.7歳(標準偏差12.5歳)、女性429人(47%)、走る人528人(58%)、走らない人383人です。
走り方をどう測ったか
ここが、この回の主題に直に関わります。
ベースラインの測定は2日間で、参加者は測定の場所に1泊しています。走り方の測定は、次の手順です。
まず、その人が自分で選ぶ速さを決めています。走る人には「45分走るときのいつものペースは」と聞き、走らない人には、45分のペースを見当できない場合は、できるだけ長い距離を走れる速さに設定するよう指示しています。そのあと2分走り、最後の30秒の速さを光電管で記録しています。
本番は、17メートルの走路を8回走ります。右足が力板に完全に乗り、速さが自分で選んだ速さの±5%以内に収まったものだけを有効としています。カメラは10台の高速カメラ、力板は走路に埋め込んだ3枚、記録の頻度は動きが毎秒240回、力が毎秒2160回です。マーカーは32個と4個のクラスターで、骨盤、太もも、すね、足に左右とも貼っています。
そして、ここが大事なところです。マーカーは、研究が用意した同じ走る靴(Brooks Launch 5)に貼られています。論文はこれを、実験室用の標準の靴と呼んでいます。参加者は自分の靴ではなく、全員がこの同じ靴で走っています。
著者はこれを、強みでもあり限界でもあると書いています。全員が同じ靴なので条件はそろいます。しかし追跡の1年のあいだ、参加者はこの靴をはいていません。著者はそのことが現実の場面への当てはまりを落とす限界だと書いています。追跡のあいだ、参加者がこの靴の代わりに何をはいて走っていたかは、論文には書かれていません。なお表1には履物の行があり、標準的な走る靴か、ミニマルな靴か裸足かという分類が質問票にもとづいて載っています。ただし表1は出発点の特徴をまとめた表です。
測られた型は、研究が用意した同じ靴で8回走ったときの値を平均し、接地指数から3つに分けたものです。
1人につき8回の値は平均されて、変数ごとに1つの代表値になっています。
生体力学のデータの処理には、Qualisys Track Manager と Visual3D というソフトが使われています。動きのデータには毎秒12回、力のデータには毎秒50回を境にしたローパスフィルタがかかっています。
足のモデルについて、1つ注意が書かれています。データを集めるときは足を複数の部分に分けるモデルを使っていたのに、解析では足を1つの剛体として扱うモデルに切り替えています。理由は、足の下位の部分の信頼性と客観性が低かったためです。著者の先行研究では、下肢のほとんどの部分は組内相関が0.9を超えていたのに、中足部は0.68にとどまり、測定の誤差がもっとも大きかった(測定の標準誤差6.3%、検出可能な最小の変化17.4%)と書かれています。
MRI は右足首だけを撮っています。右を選んだ理由も書かれていて、生体力学の測定で使う側に合わせること、参加者のあいだで条件をそろえること、そして撮影の時間と手間を減らすことです。装置は1.5テスラ、アキレス腱の撮影用に手を入れた16チャンネルのコイル、5つのシーケンスです。
1年の追跡
参加者は2日間の測定のあいだに Fitbit Charge 3 か4を渡され、1年のあいだ身体活動を記録しています。
ケガの情報は、専用の携帯アプリ Haieapp からの申告と、毎週日曜の16時から20時のあいだに答える週ごとの調査の組み合わせで集めています。Fitbit で見た普段の活動量が落ちた人には、追加の調査が届きます。そして研究チームの理学療法士が電話をかけ、申告されたケガについて詳しく聞き、診察を受けるよう勧めています。
アキレス腱症が疑われた人には、研究に関係する整形外科の専門医に相談する選択肢が示されました。ただし参加者が広い地域に散らばっているため、自分で選んだ専門医の診察を受けることも認められています。
何を「症例」として数えたか
ここが、この研究の作りの中で強いところです。
医師が国際疾病分類の第10版の M76.6 として正式に診断したものだけを、症例として数えています。本人が「アキレス腱が痛い」と申告しただけでは、症例になりません。診断の基準は、アキレス腱の部分の局所的な痛みや硬さ、押したときの痛み、荷重のかかる活動での機能の低下、そして必要なら画像です。
そして、正式な診断が付かなかったのに症状を申告した人は、比べる相手のグループからも外されています。対象になった症状は、アキレス腱だけでなく、足、足首、すねの問題も含みます。過去にさかのぼって申告された人も同じです。著者の言葉では、走ることに関係するケガのない比べる相手をそろえるためです。
人数の流れは、次の図のとおりです。
1年のあいだに、何人がどこで減ったか(申告から症例まで)
まず48人です。1年のあいだに、アキレス腱の痛みらしい症状をアプリや週ごとの調査で申告した人数です。ここまでは本人の申告です。
次に30人です。整形外科の専門医が診察して、アキレス腱症と確定した人数です。残りの18人は、診察でアキレス腱症ではないと判断されています。申告だけを数えていたら、人数は48人になっていました。
最後に23人です。30人のうち、過去に左右どちらかのアキレス腱を痛めたことがない人だけを残した人数です。この23人が、この研究が数えた症例です。23人の中では、右が10人、左が9人、残りは両側に起きています。この人数が、このあとに出てくるすべての倍率の土台になります。
| 1年のあいだにアキレス腱の痛みらしい症状を申告した人 | 48人 |
|---|---|
| 整形外科の専門医がアキレス腱症と確定した人 | 30人 |
| そのうち、過去にアキレス腱を痛めたことがない人(この研究の症例) | 23人 |
この図は、1年のあいだにアキレス腱の痛みを申告した人が、どう絞られて23人になったかを示したものです。911人という解析の全体から絞られたのではなく、申告した48人から絞られています。確定しなかった18人は、診察でアキレス腱症ではないと判断された人たちです。30人から23人へ減った7人は、過去に左右どちらかのアキレス腱を痛めたことがある人たちで、主観的なものと客観的なものの両方を含みます。23人の中では、右のアキレス腱が10人、左が9人、残りは追跡のあいだに両側に起きています。
論文のどこ:論文の Results の2段落目です。同じ流れが Figure 1 にも描かれています
911人のうち23人です。割り算をすると、およそ2.5%になります。
この数字を、著者が事前に見込んでいた数と並べると、読み方が少し変わります。著者が引いている系統的レビューでは、走ることによる使いすぎのケガの発生は3%から23%の幅にあり、アキレス腱症については7%から15%、平均10.3%とされていました。実際に起きたのは、およそ2.5%です。ただし、このおよそ2.5%は走る人と走らない人を合わせた数字です。論文に書かれている内訳は、走る人で3.8%、走らない人で0.8%です。走る人だけで見ても3.8%で、著者が引いていた7%から15%という見込みより低いです。
事前の人数の見積もりも書かれています。目安にしたのは「式に入れる変数1つにつき、少ないほうの結果が10件以上」という一般的な指針です。もっとも低い見込みを3%として、1000人から1330人が必要と計算し、脱落や欠測を見込んで1500人を目標にしています。アキレス腱症だけを見るなら、共変量4つの式で570人で足りる計算だったとも書かれています。
3つの解析があります
ここを混ぜると、数字の出どころが分からなくなります。論文は3つの解析を分けて報告しています。
- 解析1:911人が対象。左右どちらかに起きた新しいアキレス腱症が23例。年齢、性別、週に走る距離を予測因子にした式です
- 解析2:902人が対象。右脚の生体力学のデータがある人に絞ったもので、右のアキレス腱に起きた新しい症例が14例。足首の2つの数字は、こちらから出ています
- 解析3:走る人だけの520人が対象。右の新しい症例が12例。予測因子が、走らない人を除いても同じかを確かめるためのものです
つまり、走る距離の1.67倍は911人・23例から、足首の2つの倍率は902人・14例から出ています。同じ論文の中の数字でも、土台になっている人数と症例の数が違います。
統計の作り
ベースラインの比較は、分布に応じて使い分けています。正規分布に近いものは2標本のt検定、そうでないものは Wilcoxon の順位和検定、カテゴリーのものは Fisher の正確検定です。複数の比較をしたところは、Holm 法で p 値を調整しています。論文の表には、調整前と調整後の p 値が両方並んでいます。
倍率を出す式は、多変量のロジスティック回帰です。3つの決めごとが書かれています。
1つめ。予測変数は、すべて標準化してから式に入れています。平均を引いてばらつきで割る形です。だから出てくる倍率は、どれも「1標準偏差あたり」の値になります。データの変換(対数など)はしていません。
2つめ。痛みが出た人と出なかった人の人数が大きく偏っているため、Firth のバイアスを減らす方法を使っています。
3つめ。年齢、性別、走る距離は共変量として入れたうえで、生体力学の変数を1つずつ足して検定しています。論文の言い方では単項追加です。
解析は R の4.3.1 と logistf パッケージの1.26.0 で行われています。
走る距離は、追跡のあいだに測った量です
ここも読み違えやすいところです。
走る距離は、出発点の条件ではありません。追跡の1年のあいだに Fitbit が記録した量から計算されています。
計算の手順も細かく書かれています。走った事象として数えるのは、8分以上続き、連続する5分のうち3分以上で毎分140歩以上だったものだけです。距離は、Fitbit の歩行の頻度と GPS の速さに、実験室で測った同じ速さでの歩幅を組み合わせた回帰のモデルから出しています。
そして、平均の取り方が2つのグループで違います。痛みが出なかった人は、1年のうち走った週の平均です。痛みが出た人は、痛みが出た日より前の、走った週の平均です。活動のあった週とは、8分以上の走る事象が1回以上あった週のことです。
参加者と市民の関わり
この研究には、参加者や市民が関わった記録が書かれています。
計画の段階で、走る人を対象にした小規模な前向きの試行研究を行い、手順、募集、評価項目についての意見を本編の設計に反映しています。この試行研究はのちに論文として公表され、アキレス腱のケガが起きた走る人も含まれていて、その経験が問いと評価項目の優先順位を整えるのに使われたと書かれています。地域の整形外科の専門医にも相談しています。
参加者は、1年のあいだ調査に答え、Fitbit を身につけ、研究の結果と自分の健康の指標についてのニュースレターを受け取り、結果を話し合う集まりにも参加しています。5年後の2回目の測定への再参加は67%に達していると書かれています。
この数字は、何を指しているか
「着地の型」は、どうやって決めたのか
着地の型は、見た目で分けたものではありません。接地指数という数値から分けています。
接地指数は、足が着いた最初の瞬間に圧力の中心があった位置を、かかとの後ろの端から足の長さに対する割合(%)で表したものです。値が小さいほど、圧力の中心がかかとに近いことになります。
この接地指数にもとづいて、かかと(rearfoot)、足の真ん中(midfoot)、つま先(forefoot)の3つに分けています。ただし、どの値を境目にして3つに分けたのかは、論文の本文には書かれていません。引用している別の研究にもとづく、と書かれているだけです。
論文には、型の割り振りだけでなく、接地指数そのものの数値も載っています。痛みが出た23人の中央値が10.86%(範囲5.95から24.47)、痛みが出なかった888人が9.32%(範囲4.66から16.15)で、検定は p=0.44、調整後は p=1.00 です。
どちらのグループも、中央値は10%前後です。これは、圧力の中心が足の長さの10%あたり、つまりかかとに近いところにあったことを意味します。
「オッズ比」と「1標準偏差あたり」
この論文の倍率はすべてオッズ比です。そして、どれも「1標準偏差あたり」の値です。ここを外すと、数字の大きさの意味が変わってしまいます。
1標準偏差とは、その集団の中でのばらつきの1つ分です。この論文に出てくる1標準偏差の大きさは、次のとおりです。
- 足首を内側に返す力:17 Nm(ニュートンメートル)。力が回す向きに働く大きさの単位です
- 足先の外向きの回り:6度
- 週に走る距離:12.5 キロメートル
- VISA-A(自覚症状の点数):14点
- VIMATS(MRI でのアキレス腱の点数):6点
つまり0.33倍というのは、「内返しの力が17 Nm だけ強い人」との比です。グループを2つに分けて比べた値ではありません。
走る距離の1.67倍も同じで、「週に12.5キロ多い人」との比です。週に1キロ増えたときの値ではありません。
ここで、紛らわしいことが1つあります。この集団の年齢の標準偏差は12.5歳です。走る距離の標準偏差は12.5キロです。数字が同じ12.5ですが、単位も中身も別のものです。
外向きの回りが「小さい」とはどういう向きか
2.20倍の向きは、少し注意が必要です。
論文は「外向きの回りの角度が1標準偏差(6度)減ると、起こりやすさが120%上がる」と書いています。そして、6度減るとはどういうことかも補足されています。外向きの回りの角度は負の値で記録されていて、その値が0に近づく向き、つまり外向きの回りが小さくなる向きです。
ですから2.20倍は、「足が地面についているあいだに、足先が外を向く回りが小さい人のほうが、痛みが出た人が多かった」という向きの数字です。
もう1つの0.33倍は逆向きです。内返しの力が強いほうで、痛みが出た人が少なかった、という向きです。
幅(95%信頼区間)は何を指しているか
この記事の図に出てくる幅は、すべて95%信頼区間です。
倍率の指標なので、差がない位置は1です。0ではありません。幅が1をまたいでいるものは、この人数では差がはっきりしなかったという意味になります。差が無いと確かめられたという意味ではありません。
逆に、幅が1をまたいでいないものも、「この大きさの効果があると確かめられた」という意味ではありません。幅の端から端までのどこもありうる、ということです。たとえば2.20倍の幅は1.23から4.03です。1.23倍かもしれないし4.03倍かもしれない、という開きがあります。
23人という人数で、1人は何パーセントになるか
着地の型の割り振りを読むときに、知っておくとよい数字があります。
痛みが出たのは23人です。この23人の中では、1人が割合の4%あたりにあたります。論文の表も、つま先の1人を4%と書いています。
ですから、かかと78.26%と83.11%の差(約5ポイント)は、人数でいうと1人か2人ぶんの違いです。この粗さを頭に入れてから、次の図を見てください。
論文の中で食い違っている数字が1つあります
走る距離の結果について、論文は2か所で違う言い換えをしています。
結果の節では「週に走る距離が1標準偏差(12.5キロ)増えるごとに、起こりやすさが67%上がった(オッズ比1.67、95%信頼区間1.23から2.22)」と書かれています。
考察の節では、同じ12.5キロについて「64%の増加と関連していた」と書かれています。
パーセントの言い換えが、67%と64%に分かれています。この記事では、パーセントの言い換えを使わず、オッズ比1.67と幅1.23から2.22で書きます。表に載っている値と一致するのはこちらです。
使わなかった数字
論文の表1にある、週に走る距離の行の数値は、この記事では使っていません。
理由は単位です。この行は単位が週あたりのキロメートルと書かれているのに、載っている値は週あたりのキロメートルとしては大きすぎます。人が週に走れる距離の範囲に収まりません。本文が示している1標準偏差は12.5キロ/週なので、桁も合いません。
走る距離については、オッズ比1.67と、1標準偏差が12.5キロ/週であることだけを使います。同じ並びにある歩数の行も、同じ理由で使っていません。
もう1つ。表1の履物の行は、合計が合いません。痛みが出たグループは標準的な走る靴が17人とミニマルな靴か裸足が1人で合計18人、出なかったグループは550人と44人で合計594人です。グループの大きさは23人と888人なので、この項目は全員ぶんの答えがそろっていないことが分かります。検定は p=1.00 です。
着地の型は、どう報告されているか
まず、割り振りを並べます
着地の型の割り振り(100人あたりの人数で見たもの)
上の3つが、1年のあいだにアキレス腱の痛みが出た23人の内訳です。下の3つが、痛みが出なかった888人の内訳です。順に見ていきます。
痛みが出た23人のうち、かかとから着く人は100人あたり78人(78.26パーセント)。実人数では18人です。
足の真ん中から着く人は100人あたり17人(17.39パーセント)。実人数では4人です。
つま先から着く人は100人あたり4人(4パーセント)。実人数では1人だけです。23人の中で1人は、割合でいうと4パーセントあたりになります。この図はそれより細かい違いを表せません。
ここから下が、痛みが出なかった888人です。かかとから着く人は100人あたり83人(83.11パーセント)。実人数では738人です。上の78人と見比べてください。差は5ポイントほどで、上の組では1人か2人ぶんにあたります。
足の真ん中から着く人は100人あたり11人(11.49パーセント)。実人数では102人です。上の組の17人と比べると、こちらが少なく見えます。ただし上の17人は、実人数では4人です。
つま先から着く人は100人あたり5人(5パーセント)。実人数では48人です。つま先から着く人は、痛みが出なかった888人の中に48人、痛みが出た23人の中に1人いました。合わせて49人です。
6つを続けて見ると、2つの組の割り振りがよく似ていることと、上の組の数字が23人を割ったものなので粗いことの両方が見えます。論文の検定は0.56、多重比較を調整したあとは1.00でした。これは差が無いと確かめられたという意味ではなく、この人数では差がはっきりしなかったという意味です。
| 痛みが出た23人のうち、かかとから着く人(78.26%) | 100人中 78人 |
|---|---|
| 痛みが出た23人のうち、足の真ん中から着く人(17.39%) | 100人中 17人 |
| 痛みが出た23人のうち、つま先から着く人(4%・実人数1人) | 100人中 4人 |
| 痛みが出なかった888人のうち、かかとから着く人(83.11%) | 100人中 83人 |
| 痛みが出なかった888人のうち、足の真ん中から着く人(11.49%) | 100人中 11人 |
| 痛みが出なかった888人のうち、つま先から着く人(5%・実人数48人) | 100人中 5人 |
論文の表に書かれている割合を、整数に丸めて100人あたりの人数にしています。上の3つは、1年のあいだにアキレス腱の痛みが出た23人の内訳です。下の3つは、痛みが出なかった888人の内訳です。上の3つは23人を割った割合なので、1人が4パーセントあたりにあたります。この図では、それより細かい違いは表せません。丸めた結果、どちらの組も合計が99人になります。分け方のもとは接地指数という数値で、見た目で分けたものではありません。差の検定は0.56、多重比較を調整したあとは1.00です。 数字の見方を学ぶための図で、個人の予測ではありません。
論文のどこ:論文の Table 1 の中ほど、Footfall pattern (RF/MF/FF) と書かれた行です。文章では Discussion の、後ろ向き研究の一覧を並べた段落に出てきます
割り振りがよく似ていること自体、著者が本文に書いています。そのうえで著者は、「着地の型(かかと、足の真ん中、つま先)は、アキレス腱症の起こりやすさの高さと結びついていなかった」と書いています。
型の倍率は、論文に示されていません
ここが、この回でいちばん伝えたいところです。
この論文には、かかと着地が何倍、つま先着地が何倍、という値が本文にも表にも示されていません。
示されているのは2つだけです。上の図に並べた人数の内訳と、差が見られなかったという検定の結果(p=0.56、調整後 p=1.00)です。
誤解を避けるために、区別して書きます。分布の差は検定されています(p=0.56、調整後 p=1.00)。表に載っているのが、その検定の結果です。しかし型そのものの倍率という値は、本文にも表にも出ていません。型を式に入れて倍率を出したかどうかは、論文からは分かりません。
そう書く理由を並べます。倍率が並んでいる表には、年齢、性別、走る距離の3行しかなく、型の行がありません。統計の節には、生体力学の変数を1つずつ式に足して意味があるかを検定したと書かれていますが、その節は「生体力学の変数」の中身を挙げていません。結果の節が補足の付録2と3に案内しているのは、生体力学の値の直接の比較です。
読者としてできるのは、ここまでを区別することです。「型のオッズ比は1.0だった」と書くことはできません。「型の倍率は、本文にも表にも示されていない」と書くのが、確かめられる範囲です。
「差が出なかった変数」の一覧と、型は別に扱われています
もう1つ、混ぜやすいところがあります。
論文の考察には、過去の後ろ向きの研究や人数の少ない前向きの研究で挙げられていたのに、今回は起こりやすさに大きくひびかなかった生体力学の指標の一覧が並んでいます。全部で10項目です。走る速さ、接地指数、1秒あたりの歩数、足首を甲の側に反らせる角度のピーク、着いた瞬間の足の角度、押し出す力のピーク、股関節を内側に寄せる角度のピーク、そして脚のほかの関節の角度と力が3つです。
この一覧に、かかと・足の真ん中・つま先という型そのものは入っていません。ただし接地指数は入っています。接地指数は、圧力の中心の位置を表す連続した数値で、3つの型を分けるもとになった数値です。一覧に入っているのはこの連続した数値のほうで、3つに分けた型そのものは別の扱いになっています。
型のほうは、別のところで扱われています。割り振りが2つのグループでよく似ていたという記述と、表に載っている検定です。
この一覧についても、1つ添えておきます。この研究が測った結果はアキレス腱の痛みだけです。ですから一覧の意味は「アキレス腱の痛みと結びつかなかった」までで、ほかの部位の症状については何も分かりません。
勧めの向きが、2通りあります
著者が考察で触れている点を、そのまま紹介します。
走ることでのアキレス腱症を減らすために着地の型を変えるという勧めは、報道にも、後ろ向きや横断の研究にもとづく専門の文献にもよくある、と書かれています。そして、その勧めの向きが2通りあると書かれています。
1つは「つま先からかかとへ変える」という向きです。もう1つは「足の真ん中で着くことをねらう」という向きです。
著者が例として挙げているのは、過去にケガをした走る人を対象にした後ろ向きの研究で、足の真ん中で着いて走るとアキレス腱症になる見込みが2.3倍になるとしたものです。
今回の前向きの研究は、この主張を支える根拠を見つけなかったと書かれています。著者はその理由として、ケガに伴って走り方が変わる適応の可能性を挙げています。すでに痛めた腱を守るために走り方が変わっていたのなら、あとから振り返る研究では、型が原因のように見えてしまうという見立てです。
これは著者の考察であって、この研究が測って確かめたことではありません。
そして結論には、「かかと以外の着地を控えさせる従来の勧め方に疑問を投げる」という一文があります。この一文が受けているのは、その直前の文です。直前の文は、走っているときに足が地面についているあいだの足先の外向きの回りと、足首を内側に返す力が十分にあることが、アキレス腱症に対して守りに働きうる、という所見です。着地の型に差が無かったことを受けた一文ではありません。
ここでも、1つ区別が必要です。従来の勧め方の根拠が今回支えられなかったことと、着地を変えても痛みが変わらないことは、別の話です。後者は、この研究が調べていません。
結果を、幅で見る
ここからは、関連が見られた側の数字を並べます。3つのオッズ比を、1つずつ別の図にしています。
1枚にまとめなかった理由を書いておきます。3本を1枚に並べると、横の目盛りは0.17から4.03まで広がります。すると0.33の幅(0.17から0.61)は、全体の1割ほどの幅しか残りません。帯が点の裏に隠れて読めなくなります。もう1つ、向きも混ざります。0.33は下がる側で、2.20と1.67は上がる側です。
そしていちばん大事な理由です。この3つは、同じ解析から出た値ではありません。足首の2つは902人・右の14例から、走る距離は911人・23例から出ています。1枚に並べると、同じ土台の数字だと見えてしまいます。
足首を内側に返す力
足首を内側に返す力が1標準偏差(17 Nm)強いときのオッズ比と、その幅
まず縦の線を見てください。1のところに引いてあります。倍率の指標なので、ここが差がない位置です。0ではありません。
点は0.33です。線より左にあります。足が地面についているあいだに足首を内側に返す力が1標準偏差(17ニュートンメートル)強い人のほうで、アキレス腱の痛みが出た人が少なかった、という向きです。
幅は0.17から0.61です。1をまたいでいません。ただし0.17倍かもしれないし0.61倍かもしれない、という開きがあります。幅のどこもありうるので、0.33という中心の値だけを取り出して読まないでください。
この値は902人を対象に、右のアキレス腱に新しく起きた14例をもとにしています。23例ではありません。14例で推定した値なので、幅はこのくらい広くなります。そして、この力の大きさは研究者が割り当てたものではありません。鍛えたらどうなるかは、この研究からは分かりません。
| 内返しの力が1標準偏差(17 Nm)強い | 0.33(0.17 〜 0.61) |
|---|---|
| 差がない位置 | 1 |
倍率なので、差がない位置は1です。幅は95パーセント信頼区間です。値は902人を対象に、右のアキレス腱に新しく起きた14例をもとにしたものです。年齢、性別、走る距離で調整されています。1標準偏差は17ニュートンメートルです。この力を鍛えたらどうなるかは、この研究では分かりません。力の大きさは研究者が割り当てたものではなく、実験室で測ったその人の走り方です。
論文のどこ:論文の Results のうち、Baseline biomechanical parameters in both runners and non-runners と書かれた節の2段落目です
論文は、同じ値を自覚症状の点数(VISA-A)も入れた式で確かめています。そちらではオッズ比0.30、幅0.15から0.57でした。
足先の外向きの回り
足先の外向きの回りが1標準偏差(6度)小さいときのオッズ比と、その幅
こちらも、差がない位置は1です。縦の線がそこに引いてあります。
点は2.20です。線より右にあります。足が地面についているあいだに足先が外を向く回りが1標準偏差(6度)小さい人のほうで、アキレス腱の痛みが出た人が多かった、という向きです。
幅は1.23から4.03です。1をまたいでいません。ただし幅の広さを見てください。下の端は1.23で、上の端は4.03です。3倍以上の開きがあります。2.20という中心の値だけを取り出すと、この開きが見えなくなります。
この値も902人・右14例から出ています。前の図と同じ解析です。症例が14例しかないので、幅はこれだけ広くなります。そして、足先の回りも研究者が割り当てたものではありません。走り方を変えたらどうなるかは、この研究からは分かりません。
| 外向きの回りが1標準偏差(6度)小さい | 2.2(1.23 〜 4.03) |
|---|---|
| 差がない位置 | 1 |
倍率なので、差がない位置は1です。幅は95パーセント信頼区間です。値は902人を対象に、右のアキレス腱に新しく起きた14例をもとにしたもので、前の図と同じ解析から出ています。年齢、性別、走る距離で調整されています。1標準偏差は6度です。論文は、外向きの回りの角度が負の値で記録されていて、その値が0に近づく向き、つまり外向きの回りが小さくなる向きだと書いています。測ったのは足が地面についているあいだのピークで、着いた瞬間の足の角度とは別の指標です。
論文のどこ:論文の Results のうち、Baseline biomechanical parameters in both runners and non-runners と書かれた節の2段落目です。前の図と同じ段落にあります
こちらも、自覚症状の点数を入れた式で確かめられています。そちらではオッズ比2.35、幅1.29から4.35でした。
論文には、補足の付録3にある直接の比較も要約されています。痛みが出たグループでは、足首を内側に返す力のピークが14.39 Nm 低く(併合した標準偏差16.97、調整後 p<0.01、効果量0.85)、足先の外向きの回りのピークが4.10度低かった(併合した標準偏差5.52、調整後 p<0.05、効果量0.74)と書かれています。
走る人だけに絞っても
著者は、走らない人を外しても同じ向きになるかを確かめています。走る人だけの520人、右の新しい症例12例での値です。
- 足先の外向きの回りが1標準偏差(6度)小さいとき:オッズ比2.15、幅1.12から4.14
- 足首を内側に返す力が1標準偏差(17 Nm)強いとき:オッズ比0.36、幅0.18から0.68
どちらも向きは変わらず、幅も1をまたいでいません。症例が12例なので、幅は902人のときよりさらに広くなっています。
走る距離
週に走る距離が1標準偏差(12.5キロ)多いときのオッズ比と、その幅
こちらも、差がない位置は1です。縦の線がそこに引いてあります。
点は1.67です。線より右にあります。週に走る距離が1標準偏差(12.5キロ)多い人のほうで、アキレス腱の痛みが出た人が多かった、という向きです。週に1キロ多いときの値ではありません。
幅は1.23から2.22です。1をまたいでいません。足首の2つの図と比べると、幅は狭いほうです。こちらは23例で推定していて、足首の2つは14例だからです。症例の数が多いほうが、幅は狭くなります。
この値は911人・23例から出ています。足首の2つは902人・14例でした。同じ論文の中の数字でも、土台が違います。そして、この走る距離は研究者が割り当てたものではありません。走る距離を減らしたらどうなるかは、この研究からは分かりません。
| 週に走る距離が1標準偏差(12.5キロ)多い | 1.67(1.23 〜 2.22) |
|---|---|
| 差がない位置 | 1 |
倍率なので、差がない位置は1です。幅は95パーセント信頼区間です。値は911人を対象に、左右どちらかに新しく起きた23例をもとにしたもので、足首の2つの図とは別の解析です。年齢と性別と同時に式に入れた結果です。走る距離は出発点の条件ではなく、追跡の1年のあいだに Fitbit が記録した量から計算されています。痛みが出た人については、痛みが出た日より前の、走った週の平均です。論文は考察で同じ値を64パーセントの増加と書いていて、結果の節の67パーセントと食い違います。この記事ではパーセントの言い換えを使わず、オッズ比と幅で書いています。
論文のどこ:論文の Results のうち、Prospective association between age, sex, running distance ... と書かれた節の2段落目です。同じ値が Table 2 の3行目と Figure 2 にもあります
走る距離と一緒に式に入れた年齢と性別は、どちらも幅が1をまたいでいました。年齢は1標準偏差あたりオッズ比1.46、幅0.93から2.32。性別は女性を基準にしてオッズ比1.62、幅0.68から4.20です。この集団の年齢の標準偏差は12.5歳です。
著者は考察で、男性のほうがオッズ比は高いものの、信頼区間からは性別の差は有意でないと書いています。
走る人と走らない人で、何人に起きたか
倍率ではなく、実際の人数も論文に書かれています。
1年のあいだに新しくアキレス腱症が起きたのは、走る人で3.8%(528人中20人)、走らない人で0.8%(383人中3人)でした。Fisher の正確検定で p<0.01 です。
著者は結論でも、アキレス腱症は走る人に典型的な状態で、比べる相手のグループでは発生がはっきり低かったと書いています。
ここで、動画でも言ったことを繰り返します。この論文は「走るのをやめよう」という結論ではありません。著者が結論で挙げているのは、変えられる生体力学の要因と走る量をねらうことが予防に役立つ可能性と、個別化した走行距離の管理を予防の戦略に組み込むことです。
論文の序論には、定期的に走ることが早死に、心血管の病気、がんの起こりやすさを下げて健康と長寿を高めると書かれています。ただしこれは、この研究が測った結果ではなく、ほかの研究からの引用です。
自覚症状の点数と MRI の点数も、予測因子でした
ここは動画で扱えなかったところです。関連が見られたのは足首の動きと走る距離だけ、ではありません。
出発点で測った2つの点数も、有意な予測因子として報告されています。
1つは VISA-A です。アキレス腱症の症状の重さを測る質問票で、0から100の点数、100が無症状です。10点の違いが臨床的に意味のある違いとされていて、症状のある人はふつう30から70点です。
もう1つは VIMATS です。MRI の画像を専門の放射線科医が読んで、アキレス腱の厚み、連続性、信号の強さ、付随する病変から付ける0から100の点数で、100がもっとも良い状態です。
出発点の2つの点数が1標準偏差上がったときのオッズ比と、その幅
まず縦の線です。1のところにあります。2つとも点数が高いほど状態が良い指標なので、点が線より左にあるのは「状態が良いほうで痛みが出た人が少なかった」という向きになります。
1つめ、VISA-A です。自覚症状を聞く質問票で、1標準偏差は14点です。点は0.54、幅は0.36から0.82。1をまたいでいません。論文はこれを裏返して、14点下がると約1.85倍と書いています。
2つめ、VIMATS です。MRI の画像から付ける点数で、1標準偏差は6点です。点は0.70、幅は0.54から0.93。こちらも1をまたいでいませんが、上の端が0.93なので、1のすぐ近くまで来ています。
この2つを並べた理由は、動画で出した足首と走る距離だけが関連していたのではないことを示すためです。出発点のアキレス腱の状態も、1年後に痛みが出るかどうかと結びついていました。論文は、2つの点数も入れた式でも走る距離のオッズ比は1.67から1.96の範囲に残ったと書いています。
| VISA-A が1標準偏差(14点)高い | 0.54(0.36 〜 0.82) |
|---|---|
| VIMATS が1標準偏差(6点)高い | 0.7(0.54 〜 0.93) |
| 差がない位置 | 1 |
倍率なので、差がない位置は1です。幅は95パーセント信頼区間です。値は911人を対象に、左右どちらかに新しく起きた23例をもとにしたもので、年齢、性別、走る距離と同時に式に入れた結果です。2つとも点数が高いほど状態が良い指標です。どちらも1標準偏差上がったときのオッズ比が1より小さく出ていて、点数が高いほうで痛みが出た人が少なかった向きになります。論文はこれを裏返して、1標準偏差下がると約1.85倍、約1.43倍と書いています。ただし論文に載っている信頼区間は、裏返す前の値(0.54と0.70)についてのものです。この図は裏返す前の値をそのまま並べています。VISA-A の1標準偏差は14点、VIMATS は6点です。
論文のどこ:論文の Results のうち、Prospective association between age, sex, running distance ... と書かれた節の3段落目です
なお、出発点ではすべての参加者に自覚症状がなかったことも書かれています。痛みが出たグループの VISA-A の中央値は84点(範囲73.5から98)、出なかったグループは94点(範囲82から100)で、多重比較を調整したあとの差は有意ではありませんでした。症状のある人はふつう30から70点なので、どちらのグループも症状がある範囲には入っていません。著者は、この差は症状として表れる前の段階のわずかな違いを映しているのかもしれない、と書いています。
調整後の p 値について、1つ注意があります。この VISA-A の調整後の p 値は、論文の表では0.75、本文では0.76と書かれていて、2か所で少し違います。
比べる前から違っていた人たち
痛みが出た23人と、出なかった888人は、出発点でも同じではありませんでした。論文の表1には、次の違いが載っています。
- 年齢:42.9歳(標準偏差9.7)対 37.6歳(標準偏差12.6)。調整前の p 値は、本文では0.02(表では0.05未満と書かれています)。しかし多重比較を調整すると p=0.49 で有意ではありません
- 体脂肪の割合:25.8%(標準偏差5.9)対 30.3%(標準偏差7.1)。調整前は p<0.01 ですが、調整後は p=0.06 で有意ではありません
- 最大酸素摂取量:46.6(標準偏差10.2)対 41.2(標準偏差10.2)ml/kg/分。調整前は0.05未満、調整後は p=0.59 で有意ではありません
- MRI のアキレス腱の点数(VIMATS):中央値95(範囲85から100)対 100(範囲95から100)。調整後も p<0.01 です
著者も考察で、年齢は調整した式では有意な予測因子ではなかったと書いています。そのうえで、痛みが出たグループのほうが年上の傾向はあったとも書いています。
差が見られなかったものも並べておきます。性別(女性7人と男性16人 対 女性422人と男性466人、p=0.14、調整後1.00)、体重、身長、体格指数(23.8 対 24.4、p=0.33)、走る速さ(毎秒2.92メートル 対 2.77メートル、p=0.17)、1秒あたりの歩数(1.66 対 1.59、p=0.21)です。
この「調整すると消える差」の並びは、それ自体が読み方の練習になります。1つの表に十数行の比較が並ぶと、偶然だけでいくつかは0.05を下回ります。この論文が調整前と調整後の両方を載せているのは、そこを読者が見分けられるようにするためです。
参加者から外された人と、解析に入った人の比較も書かれています。年齢(39.1歳 対 37.7歳)と性別(女性44.6% 対 47.1%)では、調整後の p 値で差は見られませんでした。
この研究では言えないこと
いちばん大事な限界は、研究の組み立てです
この研究は観察研究です。そして着地の型も、足首の動きも、走る距離も、くじ引きで割り当てていません。
だからこの研究から言えるのは、着地の型の分かれ方、足首の動きの大きさ、1年のあいだに走った距離のそれぞれと、1年のあいだに医師がアキレス腱症と診断したかどうかの結びつきまでです。
この一歩を、3つすべてについて書いておきます。
- 着地の型:型と痛みの結びつきは見られませんでした。着地を変えたら痛みがどうなるかは、調べていません。「変えても減らない」とも「変えれば減る」とも、この研究からは言えません
- 足首の動き:内返しの力が強いほうで、外向きの回りが大きいほうで、痛みが出た人が少なかった、という結びつきが見られました。足首の動きを変えたり鍛えたりしたら痛みがどうなるかは、調べていません。足首の動きは研究者が割り当てたものではなく、実験室で測ったその人の走り方です
- 走る距離:距離が多いほうで、痛みが出た人が多かった、という結びつきが見られました。距離を減らしたら痛みがどうなるかは、調べていません。距離は研究者が指定したものではなく、追跡の1年に実際に走った量です
著者も限界の節で、測っていない要因による残りの交絡がありうること、そしてこうした限界は観察研究すべてに共通することを書いています。
測ったのは、アキレス腱の痛みだけです
これが補足の限界です。
主な評価項目は、1年のあいだに医師がアキレス腱症と診断したかどうかです。それだけです。ほかの部位の症状については、何も分かりません。
さらに、追跡のあいだに足、足首、すねの症状を申告したのに正式な診断が付かなかった人は、比べる相手のグループからも外されています。ですから「走るとどこかを痛めるか」という問いにも、この研究は答えていません。
人数が少ないことの意味
「違いは見られなかった」と聞いたら、何人で比べたのかを確かめます。
この研究で比べた人数は、次のとおりです。
- 着地の型の比較:痛みが出た23人と、出なかった888人。23人のうち、つま先から着いていたのは1人だけです。集団全体では、つま先から着く人は49人います(痛みが出なかった888人の中に48人)
- 足首の2つの倍率:902人のうち、右のアキレス腱に新しく起きた14例
- 走る人だけの解析:520人のうち、右の12例
著者が事前に目安にしていたのは「式に入れる変数1つにつき、少ないほうの結果が10件以上」でした。実際の症例は23例、右に絞ると14例、走る人だけなら12例です。
つまり、小さな差があっても見つけにくい人数です。幅の広さがそれを映しています。足首の外向きの回りの幅は1.23から4.03まで開いていました。
著者が挙げている限界
著者自身が限界の節に並べているものを、順に書きます。
- 足を複数の部分に分けたモデルを使っていない。データを集めるときは使っていたのに、信頼性の問題で解析では足を1つの剛体として扱っています。足首を外へ返す動きの細かい解析ができず、別のモデルを使ったほかの研究と比べにくくなります
- 研究用の標準の靴で測っていて、追跡の1年のあいだ参加者はその靴をはいていない。条件はそろいますが、現実の場面への当てはまりは落ちます。著者はこれを強みと限界の両方だと書いています
- 生体力学の値を、接地のあいだのピークの1点として扱っている。接地のあいだの動きの流れ全体の情報が落ちます。時間に沿って見る方法もありますが、ケガが起きたか起きなかったかという二値の結果には向かないと書かれています
- 参加者が18歳から65歳に限られ、しかも特定の地理的な区域に限られる。限界の節の書き方は「特定の地理的な区域」までで、どの地域かは別の節に書かれています。練習の習慣や生活の条件が違う集団や、ほかの地域には当てはめにくくなります
- 健康を題材にした研究には、やる気のある健康な人が集まりやすい。選ばれ方に偏りが入ります
- 専門医が診断し、出発点で MRI も撮っていても、見落としや誤診の可能性は残る
- 走る習慣とケガの履歴は、質問票への本人の答えにもとづく。そこに偏りが入りえます
- 測っていない要因による残りの交絡がありうる。これは観察研究すべてに共通する限界だと書かれています
仕組みの話は、著者の考察です
論文の考察には、なぜ足首の動きがアキレス腱にひびくのかという説明がいくつも書かれています。足首が自然に外へ返る動きと内返しの力が、前後の面に負荷が集中するのを防いでエネルギーを散らしているのかもしれない、という説明や、外向きの回りがねじれの応力を変えているのかもしれない、という説明です。
これらは、どれも著者の見立てです。この研究が測って確かめたことではありません。
1か所、注意して読むところがあります。著者は「この研究が前向きであることを考えると、これらの生体力学の違いは因果の仕組みを映している可能性がある」と書いています。これも著者の考察です。前向きに測ったことで、ケガのあとに走り方が変わったという向きの説明は弱まります。しかし割り当てていないので、因果が確かめられたわけではありません。
資金と利益相反
この論文には、資金と利益相反の開示があります。読者が自分で判断できるように、事実だけを並べます。
資金について。開示されている資金は、欧州連合の LERCO という事業(Operational Programme Just Transition を通じたもの)と、デジタル技術とウェルビーイングに関する研究の事業です。資金の提供元として名前が挙がっているのは欧州連合で、企業からの資金提供は記載されていません。
走行の測定に使われた靴は市販品(Brooks Launch 5)ですが、靴のメーカーとの関係についての記載はありません。
利益相反について。論文は、次の内容を開示しています。
- 著者の1人が、この研究で生体力学のデータの処理に使った商用ソフト(Visual 3D)を持つ会社のオーナーです。開示されているのは会社の所有で、研究費の提供ではありません
- この研究の中心にある結果は、足首の内返しの力と外向きの回りという生体力学の指標です。どちらも幅は1をまたいでいません。この2つは、そのソフトで処理された値です
- 論文は結論で、生体力学のスクリーニングと個別化した走行距離の管理を、ケガの予防の戦略に組み込むことを支持すると書いています
この3つを、そのまま置きます。だから信用できない、とも、だから問題ない、とも書きません。論文自身が、透明性のために、読者が利益相反の可能性を知れるようにするために開示したと書いています。判断の材料として受け取ってください。
倫理と査読について。倫理の承認はオストラヴァ大学の倫理・研究委員会から得ていて、参加者全員がデータの収集の前に同意書に署名しています。この論文は依頼原稿ではなく、外部の査読を受けています。
データの公開について。ここは2か所で書き方が違うので、分けて書きます。論文の末尾の記事情報の欄には、4HAIE コホートのデータは倫理の指針と参加者の同意に沿って共有され、研究者は承認された研究のために仮名化されたデータへのアクセスを申請できる、と書かれています。本文の末尾のデータ公開の記述は、合理的な要求があれば利用できる、という1文です。
この論文はオープンアクセスで、CC BY 4.0 のライセンスで公開されています。
元の論文のどこを見ればよいか
元の論文は、次のとおりです。
Jandacka D ら. Biomechanical insights into Achilles tendinopathy risk and protection in runners: a large prospective study 4HAIE. Br J Sports Med. 2026;60(3):186-197.
DOI のリンクはこちらです。https://doi.org/10.1136/bjsports-2025-110260
この記事で扱ったことが、論文のどこにあるかを並べておきます。
- 研究デザイン(前向きコホート、ベースラインの測定と1年の追跡):Methods の最初の段落
- 集め方、入る条件と除く条件、走らない人を入れた理由:Methods の Study population and sample の節の前半
- 事前の人数の見積もり(変数1つにつき10件、1000から1330人、目標1500人):同じ節の後半
- 参加者と市民の関わり、5年後の再参加率:Public and patient involvement の節
- 地域の選び方、モラビア・シレジア地域、謝礼とスマートフォンの貸与:Equity, diversity and inclusion の節
- 走り方の測り方(自分で選ぶ速さの決め方、17メートルの走路を8回、研究用の靴、マーカーの数、足のモデルを剛体に切り替えたこと):Protocol and data collection の節
- MRI が右足首だけであること、右を選んだ理由:同じ節の前半
- Fitbit と専用アプリ、毎週日曜の調査、理学療法士の電話:A 1-year follow-up ... の節
- 症例の定義(医師の診断だけを数えたこと、申告だけの人を外したこと):同じ節の最後の段落と、Variables and data analysis の節の最初
- 接地指数の定義、生体力学のデータを処理したソフト、8試行の平均:Variables and data analysis の節
- 走る距離の計算の仕方(追跡中の Fitbit から、症例は受傷日より前の平均):同じ節の中ほど
- VIMATS と VISA-A の定義と点数の目安:同じ節の最後の2段落と、Table 1 の注
- 標準化、Firth の方法、3つの解析、単項追加:Statistical analysis の節
- 募集の流れ(8368件から911人)と、48人・30人・23人:Results の最初の2段落と Figure 1
- 出発点の比較(年齢、体脂肪、最大酸素摂取量、VIMATS、VISA-A、調整前と調整後の p 値):Table 1 と、Results の3段落目と5段落目
- 外された人と、解析に入った人の比較(年齢と性別):Results の4段落目
- 着地の型の割り振りと検定:Table 1 の Footfall pattern (RF/MF/FF) の行
- 接地指数の数値と検定:Table 1 の Strike index (%) の行
- 履物の行の合計が合わないこと:Table 1 の Footwear の行
- 走る距離の1.67と、年齢・性別の値:Table 2 と、Results の Prospective association ... の節の2段落目、Figure 2
- VISA-A と VIMATS の予測力:同じ節の3段落目
- 走る人3.8%と走らない人0.8%:同じ節の最後の段落
- 足首の2つの倍率(0.33と2.20)と、その対象が902人・右14例であること:Results の Baseline biomechanical parameters in both runners and non-runners ... の節。節の見出しに人数と症例数が書かれています
- 直接の比較(14.39 Nm と4.10度):同じ節の最後の段落。もとの数値は補足の付録3です
- 走る人だけの値(2.15と0.36):Results の Baseline biomechanical parameters in runners only ... の節と Figure 3
- 型の倍率が本文にも表にもないこと:Table 1 の Footfall pattern の行には人数と p 値だけがあります。生体力学の直接の比較は補足の付録2と3に案内されています
- 差が出なかった10項目の一覧と、そこに型が入っていないこと(接地指数は入っています):Discussion の、後ろ向き研究の一覧を並べた段落
- ミッドフットで2.3倍とした後ろ向き研究と、今回それを支える根拠が出なかったこと:同じ段落
- ケガに伴う適応の見立て:同じ段落と、その次の段落
- 「因果の仕組みを映している可能性がある」という記述:Discussion の最初の節の最後
- 64%と書かれている箇所:Discussion の Age, sex, running distance ... の節の最初の段落
- 著者の限界8つ:Strengths and limitations の節。上に並べた順と同じ順で書かれています
- 結論(足先の外向きの回りと足首の内返しの力が守りに働きうること、それを受けた「かかと以外の着地を控えさせる勧め方に疑問を投げる」の一文、生体力学のスクリーニングと走行距離の管理の導入を支持すること):Conclusion の節。「疑問を投げる」の一文は、その直前の所見を受けています
- 資金、利益相反、倫理、査読:論文の末尾の記事情報の欄
- データの公開:記事情報の欄と、本文の末尾のデータ公開の記述の2か所。書き方が違います
見方を練習するために
この回の芯は、2つです。
1つめ。「関係がなかった」と「変えても変わらない」は、別の話です。
この論文は、着地の型と1年のアキレス腱の痛みの結びつきを見つけませんでした。しかし、着地を変えた人を追いかけたわけではありません。走り方は、くじ引きで割り当てられていません。だから「変えても減らない」とは言えず、同時に「変えれば減る」とも言えません。
同じことは、関連が見られた側にも当てはまります。足首の動きと走る距離も、割り当てられていません。これらを変えたらどうなるかも、この研究は調べていません。関連が見つかったものだけ因果のように読む、というのは一貫していません。
2つめ。「差は見られなかった」と聞いたら、何人で比べたのかを探します。
この研究で痛みが出たのは23人でした。そのうち、つま先から着いていたのは1人です。23人の中では、1人が割合の4%あたりにあたります。この粗さで「差がない」と言える幅は、かなり広いです。
そしてもう1つ、この論文には珍しい見どころがあります。型の倍率が、本文にも表にも示されていません。分布の差は検定されています(p=0.56、調整後 p=1.00)。しかし型そのものの倍率という値は出ていませんし、型を式に入れて倍率を出したかどうかも、論文からは分かりません。だから読者にできるのは「型の倍率は1.0だった」と書かないことと、「示されていない」と区別して覚えておくことです。
この見方に一番近い本として、『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』を挙げておきます。因果を調べるには何が必要かを、方法そのものから扱った本です。2つのことが結びついて見えるとき、片方を動かしたら本当にもう片方が動くのか。それを確かめるには、どう割り当てればよいのか。この記事のページでは、この書名にアフィリエイトのリンクを付けています。
最後に、もう一度だけ書いておきます。
この研究が測ったのは、アキレス腱の痛みだけです。ほかの部位の症状については、何も分かりません。そして着地の型を変えればどうなるかは、この研究では分かりません。
元の論文
Jandacka D ら. Br J Sports Med. 2026.
https://doi.org/10.1136/bjsports-2025-110260
もっと知りたい人へ
PRこの記事には広告(アフィリエイトのリンク)を含みます。